告白(四)
尚、聞き耳を立てる僕に聞こえて来たのは千広さんの咳払いだった。
恐る恐る視線を向けると、僕の方を見ながら手を招いている。
聞き耳を立てていたのがバレたのか、それとも――不安と期待を抱きつつ、ほうきを手に掴んだまま元居た場所へと戻る。
僕が着席するなり、
「気になるなら気になるって正直に言えよ」
ニヤニヤといやらしい笑顔で千広さんが言ってくる。
全てが態度に出てしまっているから分かりやすいのか、それとも心の中が読まれているのか、どちらにしろこの笑顔は気分が良いものとは言えない。だから、
「違いますよ。僕の初のお客さんなんで何か依頼があれば是非お手伝いしたいな。って思ってただけです」
「初のお客さん?もう何回も仕事はしてるだろ」
「そうじゃなくて、僕が一人で店番してる事なんて無いでしょ?いつも千広さんがいるんですから。一人で店番をしてる時にやって来てくれた初のお客さんじゃないですか」
何とか上手い事誤魔化せた。その証拠に、
「なるほどね」
と、言いながら千広さんは頷いている。
しかし、わざわざここに呼ばれた理由は何だろう。
千広さんがあんな言い方をしてくるので、本当に聞き耳を立てていたのがバレて彼女の前で説教という名の辱めを受けるのも覚悟していたんだけど。
「京香ちゃん」
隣からそんな声が聞こえ、思わず眉間に皺が寄ってしまった。
「さっき練習したこと言えそう?」
僕と喋る時には一切出さない優し気な声に喉の辺りもむず痒くなってくる。が、話し掛けられている彼女は別にどうとも思っていないのか、表情を変えずにゆっくりと首を縦に振っている。
二人の間に割って入るのはマズいかな、とは思ったが、
「何なんですかその喋り方。気持ち悪い。って言うか練習って何ですか?」
先に口が開いてしまっていた。それだけ女の子に優しく喋りかけている千広さんが気持ち悪いって事だろう。
「ちょっと待て。京香ちゃんが自分で言うから」
促された彼女は、俯いていた顔をゆっくりと上げて視線を僕へと向ける。
緊張からか頬は真っ赤になっていて、目も涙で潤んでいるようにも見える。
そんな彼女が静かに口を開き、
「……あ、あの、あの」
と、小さく呟く。
千広さんには色々と悪態をついてしまったが、こういう事なら後で全て謝らないといけないかもしれない。
緊張して上手く喋れなくなり、頬の赤みと潤んだ瞳でこちらを見る女の子。聞こえてしまった『告白』というフレーズ。二人で何かを練習していたと言う話。そして、会話に入って居なかった僕がわざわざ呼ばれた理由。
ここまで揃っていれば間違いない。目の前に座っている彼女は僕に告白をしに来たんだ。
最初に話をした時に、少しカチンと来てしまったけど、それも後で謝らないといけないな。千広さんに対してもそうだけど、今日はこの後、謝る事がいっぱいだ。
「あの、告白のお手伝いをして頂けないでしょうか?」
この言葉を聞いた瞬間の僕は一体どんな顔をしていただろうか。




