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告白(三)

 精一杯のフォローに努めても相手の固い扉を開く事が出来ずに撃沈した。

 あれからまだ数秒しか経っていないはずなのに、もう何時間も沈黙が続いているんじゃないかと思うほど気まずい時間が流れて行く。

 そんな空気を切り裂いたのは、散々喋り続けた僕でも無ければ、逆に全く喋らなくなった彼女でも無かった。


「ただいまー」

 昼過ぎに出て行った千広さんが、まるで何事も無かったかのように入り口を開けて顔を出していた。

「あれ?」

 数歩進んだところでレジテーブルに見慣れない人影が一つあるのに気付いたんだろう。

「お客さん?珍しいね」

 店主であるあなたが言いますか?と、思ったが言いたい事を全て一度飲み込んで、そのまま一息ついてから口を開く。

「実は相談があるって事で訪ねて来たみたいなんですけど、どうやら言いにくい事みたいで」

 彼女の方に一度視線を向けるが、彼女は一切こちらに目を向けていない。それでも、気にせずに、

「あの、ちょっとふざけた人ではあるんですけど、あの人がここのお店の店主なんで、もし良かったら相談してみてはどうですか?ふざけてる人ですけど、そういう話はちゃんと聞いてくれますから」

 言っている間にレジテーブルのこちら側にやって来た千広さんは、

「なんか酷い言われような気はするが、話はちゃんと聞きますよ?」

 僕の頭を軽く撫でながら言う。


 千広さんの分のコーヒーを作りに裏にある台所へと移動するが、早くも二人の会話が盛り上がってるのが分かった。一体どんな話をしてるかなんて事は分からないが、先程まで俯いたままぽつりぽつりとしか喋らなかった彼女の笑い声がここまで微かに聞こえて来ている。

 話が盛り上がる魔法を使ったのか、それともそういう薬かは分からないが、どうやら人と話すという基本的な事にもコツやテクニックみたいなものがあるみたいだ。後で千広さんに聞いておこう。


 僕がコーヒーカップを持って行くと、盛り上がっていた話がまるで嘘だったかのように静かに話をする二人がいた。こちらをじろじろと見ながら、擬音で言うならヒソヒソと言った感じの内緒話をしている。

「僕の顔に何か付いてますか?」

 わざと言ってみたが、全くこちらに対する反応は返って来ない。


 熱々のコーヒーカップを千広さんの前に置き、その場を後にする。あまり居心地が良いものでは無いし、彼女が訪ねて来るまで掃除をしていた事を思い出したのだ。

 僕は彼女が座っている方へと回り込んで立て掛けたままにしてあったほうきを手に取り、何事も無かったかのように部屋の中央まで行くと掃除の続きを開始した。こうやって床をじっくり観察してみると、意外にも午前中に掃き残したであろうゴミが結構残っている。向こうの方でヒソヒソ楽しそうに話している二人の会話は気になるが、ほうきの動きとゴミにだけ神経を集中させる。

 心頭滅却すれば火もまた涼しというやつだ。


「え、告白?」


 ヒソヒソとした会話から突如、千広さんの驚いたような声が骨董品店中に響いた。

 恥ずかしながらも僕はそれに反応してしまい、今まで動かしていたほうきを止めて、ついつい聞き耳を立ててしまう。更に耳だけでなく視線もわずかだけどあちらへと向ける。

 

 僕の場合、心頭滅却しても火は火のままだったらしい。

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