エピローグ
――とある街の隅にひっそりと佇む小さな神社。
「お母さん、早く早くー」
小さな女の子の声が、赤く塗られた鳥居の向こう側から聞こえて来る。彼女は駆け足で鳥居の前までやって来ると、母親がいるであろう方を向いて手招きをする。
しばらくすると、彼女の元へと母親らしき人影が大きくなったお腹を労わる様にしてやって来た。そして、鳥居を真っ直ぐ見つめる少女の両肩へとゆっくり手を置くと、
「こんな所に神社があったんだね?お母さん、知らなかった」
「この前、ミーちゃんとかくれんぼしてて見つけたの!」
「あんた達こんな所まで遊びに来てるの?」
その言葉を聞いて、怒られると思ったのか、少女は突然走り出し、
「キャー」
などと叫びながら、鳥居の下を抜けて境内へと入って行く。
「あんまり走って転ばないようにねー?」
母親が注意を入れると、
「うん!」
と、女の子は走ったまま元気に返事をする。
母親も鳥居に一礼をして中へと足を運ぶ。
境内の中央だけに敷かれた石畳を進んで行くと、十メートル位ですぐに小さな社務所が姿を見せるが、まだ日が昇りきっていないのにカーテンが閉められている。視線を正面へと戻すと、そこには既に本殿が姿を見せており、先を行っていた少女がまた大きな声で母親の事を呼んでいる。
「お母さん、早くお願いしないとー!」
「そんなに急がなくても神様は逃げたりしないよー」
少女は母親がやって来るのを待ちきれないのか、本殿前で手を合わせ、
「赤ちゃんが元気に生まれてきますように―」
そこへ母親がやって来て、少女の頭を軽く撫でると、お財布から小銭を取り出して賽銭箱へと投げ入れる。そして、黙ったまま手を合わせて目を閉じる。数秒後に再び目を開き、
「社務所が開いていればお守りでも買うんだけどね」
零す様に呟くと、
「しゃむしょ?」
少女は母親に尋ねる。
「あそこにさ、建物があるでしょ?」
母親は先程横を通り過ぎた社務所を指差し、少女に言う。
「あそこでお守りとかお札とか売ってるんだよ」
「今日はお休み?」
「みたいだねー」
言いながら、本殿の横に看板のような物が置いてあるのを見つけ、ちょっと近付いて目を通して見る。そこにはここで祀られている神様について説明文が書かれていた。
後ろ付いて来た少女が、
「それは何ー?」
「ここにいる神様について書いてあるの」
「なんてなんて?」
「ここには男の人と女の人の神様が一人ずついるんだって」
「カップルかなー?」
「あんた、難しい言葉知ってるねー?」
驚く母親に、
「お父さんとお母さんもカップル?」
「それは嬉しい」
境内に響き渡った笑い声は、青々と茂った木々に吹く風の音に掻き消される。
「お参りも済んだし、そろそろ帰ろうか?」
手を繋いで真っ赤に塗られた鳥居を抜けて行く二人は、くるり向きを変えると、揃って頭を下げて再び歩きだした。春の穏やかな気候の中を。
―――おわり―――




