扉(六)
「でも、これで紗千と一緒に居られるんですよね?」
僕が興奮気味に言うと、米蔵さんは黙ったまま首を縦に振り、
「先に言っておくが、誰にでもこういう事をする訳じゃ無いからな?普通の人間はここにやって来て自分の心残りを晴らして元の世界へと帰って行くんだ。恋愛なんちゅうもんを楽しんでる人間なんていないんだ。そういう意味でもお前さんらは特別だったってことだな」
言った。それに反応したのは紗千で、
「一応、それは分かってるつもりですけど、何も知らない私たちがいきなり神様になるなんて大丈夫なんですか?まだ頭は混乱しててちゃんと理解は出来ていないとは思うんですけど、神様になるって相当な責任を背負う事になるんじゃ?」
彼女のその言葉を聞いて心の中で同意した。
確かに僕たちがいる世界は元々居た世界よりもずっと不思議な事が起こる変わった場所だというのは分かっていたつもりだったが、それでもその不思議な世界に居るその他大勢の一人の住人だった僕たちが、今日からいきなり神様になるなんて言われて、大丈夫なのか?ってのが本心だし、極端に言えば訳が分からない。
千広さんがコーヒーを一口飲んで、
「まあ、さっきも言ったが最初は見習いってとこから始まる。って言っても何か特別な仕事がある訳でも無いから、真吾はこの店の手伝いを変わらずやってくれれば良いし、紗千もこの世界にやってきた人間の居場所の調査と情報収集を変わらずやって貰う事になる」
彼はカップを置いて、顎を軽く触って少し考えるような仕草をして、
「神様ってどういうイメージだ?」
そう僕たちに尋ねて来た。
「えーっと、神社とかで願い事を聞いたりとかですかね?」
「だな。向こうの世界にいる神様はそうだな。で、こっちの世界にいる神様も人の心残りを晴らすっていう願い事を叶えてやる訳だ。まあ、つまりやってる事はそんなに変わらんって話だ」
「じゃあ、僕はもう神様の仕事を手伝ってたって事ですか?」
「お前だけじゃなくて紗千もそうだな。神様が協力して人の心残りを晴らしてんだ」
千広さんに言われ、再び僕たちはお互いの顔を見る。
「他に何か聞いときたい事はあるか?」
声が前から飛んで来たので、
「あの、お二人も神様なんですよね?」
千広さんの言葉を返すように僕は言う。それに彼は頷きで返し、
「俺らだけじゃなくてこの世界だけでもかなりの数いるぞ?お前らも新しく神様見習いだしな?」
「神様ってそんなに沢山居ても大丈夫なんですか?」
「真吾、知ってるか?この国の神様ってのは八百万いるんだよ」
僕は千広さん、米蔵さん、紗千の顔を見回して呟く。
「八百万仲介紹介相談所?」
八百万の神様が仲介や紹介をしてくれる相談所――
17.04.11 内容修正




