扉(五)
「だが、さっきも言ったがそういう馬鹿は嫌いじゃない」
米蔵さんは、再び笑顔を作ると、
「お前さんらがどうしても二人でここに残りたいと言うなら、その心残りを晴らす事も出来るが、この世界の構造を理解している人間がここに残るには、ある程度やらなきゃいけない事がある。で、それを越えてしまうと二度と人の世界には戻れない。それでも良いか?」
笑顔が途中で真剣な表情へと変わるのを目の当たりにすると、大真面目な話なんだという事が伝わる。
「はい。紗千と一緒に居られるなら、僕は戻れなくても構いません」
「私も、真吾と一緒に居られるなら、大丈夫」
米蔵さんは、小さく複数回頷いて、
「千広、この二人を登用してえから認証貰えるか?」
先程まで渋い顔をしていた千広さんだったが、いつの間にか穏やかな表情へと変え、今度は右手で頬杖をついて、
「俺は構わねえよ。せっかく仕事を覚えたアルバイトを手放すのは惜しいと思ってたとこだからな」
言うと、カップへと手を伸ばし、
「爺と俺が紙にちゃちゃっとサインを書いた時点で、お前らは神様見習いになる」
彼の突然の言葉に、僕は言葉を失い開いた口が塞がらなかった。隣で紗千が一体どんなリアクションをしているのか、確認することが出来なかったが、
「神様見習いってどういう事ですか?」
そんな言葉が隣から聞こえた。それに返事をしたのは千広さんで、
「この世界で消えずに残っている人間は神様なんだよ。つまり、ここでずっと生活していく為には神様になる必要があるんだ。幸い、今は神様の数に余裕もあるらしいし、爺と俺の二人が承認すれば問題無く審査は通る」
それに続くように今度は米蔵さんが、
「まあ、神様になってもやる事は変わらねえよ。今まで通りの仕事をして休みの日にはそこらに遊びに行ったらいい」
言って笑うと、すぐに表情を真顔へと変え、
「ただな、二人で遊ぶ事ばかり考えて仕事をないがしろにしてると、一年に一度しか会えねえようになるかもしれねえから、くれぐれも気ぃ付けろよ」
どこかで聞いた事のある話だと思ったが、米蔵さんもそれを承知で言っているのだろう。言っては、大声で笑っていた。それを見ながら僕と紗千はお互いの顔を見つめ、
「神様?」
「神様?」
と、確認するように呟いた。
まだまだ頭の中では理解出来ない事がクルクルと回っているが、それでも紗千と一緒に居られるという事実だけはしっかりと理解出来ている自分がそこに居た。
17.04.10 誤字修正




