扉(四)
「とは、言ってもな?」
そう首を傾げる米蔵さんに、
「仮に僕の元々の心残りが『誰かの役に立ちたい』っていうものだったとしても、今はもう違います」
「ん?どういう事だ?」
今度は千広さんが尋ねる。
僕は隣に座る紗千の方を見ると、
「今は、二人で一緒に居たいという強い心残りがあります」
紗千もそれに続き、一度深く頷くと、
「私も同じ気持ちです。でも、私たちの言ってる事が屁理屈だって事も自分たちで良く分かってます」
「はい、それでも二人で一緒にいられる可能性が一番高いと思ったのが、これだったんです。例え、無理だと笑われても、一蹴されても僕たち二人だけはそれを信じてここで、この世界で生きていきたいと思ったんです」
千広さん、米蔵さんの顔を交互に見ながら言い切った。
紗千が言ったように、僕たちが言ってる事が理不尽、こじつけなのは十分理解している。ここで晴らされたら消えてしまう心残りは、以前生きていた世界での心残りであって、ここに来てからの心残りがあった所でこの世界の何に関わってくるのかは分からない。
しばらく、二人の様子を伺っていたが、どちらからも何も言葉は聞こえて来ない。あまりにバカな事を言っているせいで呆れられているのかと思っていると、
「久しぶりにそういうバカが現れたな」
米蔵さんはそう言って笑っていた。
「なあ?千広?」
米蔵さんから話を振られた千広さんは、肩肘を付いた左手で顎を支えながら、機嫌悪そうに眉をしかめて目を細めている。しかし、特に何かを喋るという事は無く、そのまま無視をして米蔵さんが話を続けた。
「俺がここの責任者になって、お前らみたいな事を言い出したのは二組目だ」
言って、また笑いを一つ挟んだのだが、状況を理解しているのは恐らく彼だけで、僕と紗千に至っては一体何を言っているのかも分からなかった。だから、
「あの、どういう事ですか?」
僕が尋ねると、
「過去にも居たんだよ。お前さんらみたいに消えたくないって言い出した人間がな?」
「それって」
そう言いながら僕と紗千は、千広さんへと視線を向ける。
それに合わせるようにして米蔵さんが、
「まあ、その話は良い。それよりお前さんらの話だ」
千広さんを見ていた僕と紗千は再び視線を米蔵さんへと戻す。
「心残りが変わったからこの世界に残してくれってのは、まあ無理だ。お前さんらは屁理屈と言ったが、本当にそうだ。子どもの浅知恵だとしか思えない」
厳しい言葉に僕達は何も言い返せなかった。




