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扉(一)

 翌朝は、しとしとと雨粒が屋根を叩く音で目を覚ました。

 まだしっかりと起き切っていない頭を揺すり起こして昨夜の事を思い出す。

 僕と紗千が向こうを出たのはもうすぐ夕暮れになろうかという時間で、出発するのが明らかに遅くなってしまっていたのには気付いていたが、少しでも長く一緒に居たいという気持ちがそうさせてしまったのだから仕方がない。

 街に戻って来た頃には当然真っ暗になっていた。そんな中、彼女を一人で帰す訳にはいかない。僕は当然アパートまで紗千を送り、その後自転車を飛ばして店まで帰って来たのだが、夕飯も食べずにそのままベッドに倒れ込んでしまった。

 想像以上に疲れていたのか、それとも僕の体力が無いのか。


 ベッドから出て、服を着替えて下へと降りる。

 コーヒーの豆を挽く音に、千広さんの鼻唄と色々な音が聞こえて来るが、一番大きな音は彼が何かを焼いているであろう音だ。料理を毎日している人間がどうして『弱火』というものが存在している事に気が付かないのか。

 僕は台所へと顔を出して、

「おはようございます」

 と、挨拶をすると、千広さんからの返事を待つ前に、

「今日、ここに米蔵さん呼んでるんでその時は千広さんも一緒に話を聞いてくださいね?」

「なんだ?急に?」

「まあ、とりあえず報告というか、そんな感じです」

 別に濁した訳では無く、上手く説明が出来ないのでそう言っただけなのだが、

「何だ?ろくでも無い事考えてるんじゃないだろうな?」

 千広さんにはそう聞こえてしまったようだ。

「違います」

 僕はハッキリと否定してその場を後にするが、

「おい、真吾も朝ご飯食うだろ?」

 背中に声を掛けられるので、

「真っ黒になってない目玉焼きがあればいただきます」

 笑いながら言って足を進めた。


 いつも通りに店の掃除を始めようかと思ったのだが、昨日の今日であまりやる気が起きないのと天気が悪いのも相まって全然箒を手に持つ気になれなかった。

 昨日、自転車で二人乗りをしながら帰る途中、とりあえず二人でどうしたいかを話し合った。その意見を二人の保護者代わりの二人に聞いて貰おうという事になった。それがどういう結果になっても二人で決めたことだから、納得しようという話でまとまった。


「そんな大事な日かもしれないってのに朝から雨とは幸先悪いねえ」

 僕は骨董品に囲まれたこの店の真ん中で、上の方に備え付けられている窓から落ちて来る雨粒を見ながら小さく呟いた。

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