海へ(十二)
僕は彼女にバレないようにそっと服の袖で涙を拭った。
「でも、二人で旅行してそのまま消えちゃうんだよ?」
話の流れとはいえ、言い終わってからしまったと思った。あれほど何回もこの話は禁止だと言われていたのにまた自分から振ってしまった。しかし、紗千の反応は先程とは違ったもので、
「真吾が私を残して消えちゃうならそっちの方が百倍良いよ」
その言葉は本当に嬉しかった。が、素直に喜びを表に出せるような状況で無いのも分かっている。だから、
「僕も紗千を置いてくのは嫌だな」
僕の言葉を最後にまたしばらく沈黙が続いたが、
「消えちゃったらどうなるんだろうね?」
紗千がそんな事を聞いて来た。僕もほとんど同じ質問を米蔵さんにして答えを聞いていたが、あれが本当の事なのか分からないので、言おうかどうか迷っていると、
「やっぱり新しい生活が始まるのかな?」
「知ってたの?」
思わず聞いてしまったが、普通の人はそう考えるのが普通なのかもしれない。
「知ってたって?」
「あ、いや、僕が消えるかもしれないってのは米蔵さんから聞いたんだよね。それで、その時に消えた後はどうなるのか聞いたんだけど、所謂輪廻転生とか生まれ変わりって感じって言ってからさ。紗千も聞いてたのかな?って」
彼女は無言のまま首を横に振る。
「あ、そうだ。その時にね?生まれ変わったらここでの記憶もここの前の記憶も無くなるって話になったんだけど、もしかしたら紗千だったら少しは覚えてるかもしれないって」
「私の反動がほとんど無かったから?」
「理由までは詳しく聞いてないけど、多分そうだろうね」
彼女は複雑そうな表情をしている。
「私だけが覚えてても意味ないじゃん」
彼女が小さく呟いた言葉を聞いて、その表情の意味がやっと分かった。
あの時、紗千が少しでも僕の事を覚えていてくれて、更に二人の関係がある程度近い状況で生まれ変われるのであれば、また仲良く生活する事だって可能なんじゃないか?と、楽観的に考えていた。しかし、姿形は全くの別人になっていて、僕であろう人間は何も覚えていない。そこに全てを覚えている紗千が話し掛けて来たとして受け入れられる人間が一体どのくらいいるのだろう。僕は、ほとんどいないと思う。そもそも、紗千が僕であろう人間を見つけ出す事も無理なんじゃないだろうか。
「やっぱり、この世界で二人で過ごせるのが一番かな」
彼女はフフッと笑い声を零すと、
「自転車の二人乗りをしても怒られないしね?」
こちらに向けて笑顔を作った。




