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電話とダ○ソンときたら異世界です。

 「突然だけど、君は革命を起こしたくないかい?」

 ほんとに突然すぎる。

 俺、宮笠悠斗は昨日リストラで職を失ったばかりで、ショックで放心状態だっていうのに。

 この電話もてっきり仕事先から「やっぱり戻ってきてくれ」みたいな内容だと思って、淡い期待を胸に、ろくに番号も確認せずに出たら、これだ。

 「すいません。どちら様ですか?」

 変な宗教勧誘ならお断りだ。

 「ん、そうだなあ、強いて言うならお偉いさん、かな?」

 あー、いかんやつだ。

 「切りますよ?」

 「待ち待ち待ち!嘘じゃないんだ。ただ、詳しく言っても信じてもらえないだろうからね」

 どういうことだ。まるで意味が分からない。なんか敬語使うのもめんどくさくなってきた。

 「信じるから、詳しく教えてくれ」

 電話の向こうの相手は息を大きく吸い込み、自信ありげに、

 「それじゃあ、ぼくは王。一国のお」

 「ふざけてるだろ」

 「信じるって言ったよね!?ねえ!?」

 「悪い。信じる信じない以前に暴露することが突拍子がなさすぎて」

 一瞬、電話の向こうの相手が笑った気がした。

 「いやー、ごめんごめん。そりゃそうだ。だったら、実際来てもらったほうが早いね」

 「は?」

 電話の向こうの相手は、もう一度俺に尋ねた。”重要なことを付け加えて”。

 「もう一度聞くよ。君は革命を起こしたくないかい?この世界ではないどこかで」

 この世界ではないどこか。この言葉がなぜか俺の心を揺さぶった。

 「なあ、そのどこかに行けば俺は革命を起こせるか?」

 「それは出来るとも言えるし、出来ないとも言える。こればっかりは君次第だね。でも、」

 「でも?」

 「君には大革命をもたらす素質がある!」

 俺のなかで何かが大きく脈打った気がした。

 今まで、何かの素質があるなんてことを言われたことは一度もなかった。そして俺自身もどこかでそれを受け入れてしまっていた。でも、自分のことを素質があるなんて言ってくれる人が電波の先にいるなら、たとえ騙されていたとしても俺は、

 「俺は、革命を起こしたい!」

 次の瞬間、自宅の床が轟音と共に振動し始め、スマホのスピーカーがダ○ソンばりの吸引力を発揮した!俺の耳垢からなにまですべて吸い込まれている気がする。それが少し気持ち良かったりする自分が悔しい。

 さすがは吸引力の変わらないただひとつのなんとやらだ、というか、

 「どんどん吸引力増してってるじゃねえかあああああああああああああ」

 この断末魔の叫びを最後に俺の存在はこの世界から消え去った。



 目を開けると、そこには眩しいくらいの笑顔をこちらに向けてくる男性の顔しか見えなかった。

 何か、何か言わないと……

 「お、おはようございます」

 「おはよう、悠斗くん」

 ここは「なんで俺の名前を!?」って展開なのだろうけど、あいにく俺はこの男性の声に聞き覚えがあった。

 「あなたはあのときの電話の相手か」

 「覚えていてくれて嬉しいよ。僕はこの国の王を務めているアレクシアっていうんだ」

 アレクシアは優しく微笑んだ。

 俺は軽く会釈してから、意識を失ってる間に寝かされたであろうベッドを離れ、日の光が差し込む大きな窓を開け放った。

 「おお……」

 思わず感嘆の声がもれた。

 目の前には、異世界モノのアニメ、もとい、世界史の教科書に出てくるような中世ヨーロッパを彷彿させる町並みが広がっていた。

 どうやら俺は異世界に来てしまったみたいだ。

 石造りの住宅街に古風な服装、そして何よりも俺を興奮させたのは、

 「獣耳……エルフ耳までいる!しかも、美少女!!!」

 そう、俺は美少女が大好きだ。いや、俺の元いた世界の男子という生命体も、ほとんどがこの意見を肯定したに違いない。

 この世界では、不細工の定義がないのかと思うほど、視界に入る女性は美人ばかりだった。

 男性は、いたってふつ……う!?普通にビーストが二足歩行で混じってるぞ、おい。

 「気に入ってもらえたかな?僕たちの世界は」

 後ろからアレクシアが声をかけてきた。

 「ああ、最高だよ」

 最高の美少女空間だ。ビーストには驚いたけど。

 「では、改めて数多の種族が共存する国、レグナルドへようこそ。僕たちは君を心から歓迎しよう」

 俺の内なる思いを知ってのことかはともかく、めちゃくちゃ歓迎された。悪い気分じゃないな。

 数多の種族が共存する国、か。ほんとにファンタジーだな。

 「さっそくなんだけど、本題に入ってもいいかな?」

 アレクシアがさっきまでのとろけるチーズのような笑顔から一転、真剣な表情で言った。

 「君にわざわざ異世界から来てもらったのは、このレグナルドの国民に”非日常”を提供してもらうためなんだ」

 「というと?」

 「それぞれが自分たちの仕事をして、夜には家族と過ごす者もいれば、酒場で仲間と話に華を咲かせる者もいる。これはなかなか不自由ない生活だと思わないかい?」

 「まあ、たしかに普通にいい暮らし方だと思う」

 「日常を過ごすぶんには申し分ないとぼくも思っているんだ。でもね、日常から解放されるという概念が彼らには欠けている。彼らは非日常にいざなわれることで日常だけでは発散しきれない何かを発散してほしいんだよ」

 なるほど。言いたいことはよくわかる。元いた世界でもライブとか映画とかって日常を忘れることができる場だったな。

 「それで俺は具体的に何をすればいいんだ?」

 俺の質問にアレクシアの顔がとろけた。

 「そこは自分で決めておくれ」

 なんだろ、もうこいつの顔を蒸発させたい。

 「ただ、呼び出したのはこっちだからね。衣食住やお金のことは僕たちがなんとかするよ」

 やっぱり加湿にしよう。この人いい人です。

 「さっそく君の新しい家に案内するから、案件は気長に考えてくれていいよ。決まったら教えてくれればいいからさ」

 非日常ねえ。あっちでも人気だったし、やっぱあれかな。

 「もう決まった」

 「え?」

 アレクシアが聞き返してくる。

 自分で決めろと言われた時は途方もないことだと思ったけど、ここには美少女がたくさんいたじゃないか。これを使わない手はない!

 俺はこれで大革命を起こしてみせる。

 「俺は決めた。アイドルをプロデュースする!」


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