石碑と時計
私は、綺麗な夕日が海に浮かぶ、とても綺麗な場所にいた。
時間は5時とか、6時とかだと思う。
でも、私の下にある時計は、どう見てもずれているとしか思えない。
半径25m。直径50mの円の形をした広場の真ん中に、私は立っている。
その円はガラス張りになっていて、その周りを黒い棒の並ぶ柵で囲まれている。
分厚いガラスの下には、長い針と短い針の競争の為に作られた空間。
広場から柵までの、広場ではない1mの部分に、小さいとも大きいとも言えない石碑が立っていた。
何も彫られず、書かれていない石碑は、広場の外縁に沿って、24個置かれている。
しかも、よく見ると、広場と呼べる部分の端に更に24個。
計48個の石碑が置かれていた。
縦横一辺50cmくらい、高さ1mくらいの石碑。
秒針の音が、何度も響いている。
短針はまだ24時を示し、長針は59分を示している。
そして短針が、ちょうど1時を指し示そうとしていた。
秒針が59を示し、そして次の瞬間・・・・。
ボコッ、と、不吉な音が、1時の方向から聞こえてくる。
反射的に、私はそちらを見た。
そこには他の石碑と同じような石碑がある。
ただ1つ違うのは、それが『文字の彫られた』石碑であるという事。
彫られていたのは・・・・。
「え・・・・」
漢字ではなく、ローマ字。
T・O・H・O・U
ト・ウ・オ・ウ
とうおう
藤黄
「 ―― っっ!!」
綺麗に並べられた、ローマ字。
私は身体の力が抜けて、その場に座り込んでしまう。
そして、石碑を舐めるように見つめた。
思ったのは、それが石碑ではなく、墓石のように見えるという事。
48個もある石碑の中に、この石碑にだけ、名前が刻まれている。
どういうわけか、それは、私に絶望を与えるには充分過ぎた。
直感したのだ。
―― あと47個の石碑にも 『誰か』の名前が刻まれるのだと