おそらく運命の出会い
「―― えっ。空音君も、普及する前のECTを?」
「うん。販売が始まる2週間ぐらい前に、青桐町の様子見で知り合った友達から、ね」
空音君の手には、形は私と同じ薄碧色の本体と、それよりも薄い色で半透明の、プラスチック製カバーが付けられたECTを取り出していた。
このカバーは蓋になっていて、左側にあるボタン式のロックを外せば、半自動的に本体のタッチパネルが現れる仕組みだ。空音君は、そのロックを外した状態で私に見せてくれた。
少し前まであった後悔は、既に欠片も無かった。無知な脳で考え付いたあれやこれやは全く無くて、ただ自分達の持っている世間話程度のものでも、会話は順調に進んでいた。
実を言うと、それほど会話は得意ではない。そんな私を退屈させまいとしているのか、もしくは素でこうなのか、空音君は2時間ほどの会話の中で、大半の時間を自分の話に割り当てた。
今の話題は、ECTについて。
この話題は私から出した物だ。世間話にも限度がある故に、早々にネタの尽きてしまった(話す回数は彼よりダントツに少ないのだが)私の持ち出せる話題と言えば、世間話よりちょっと、人と人との関係に亀裂が入るリスクもある、自慢話だった。
幸い、私が持っている自慢などたかが知れている。例えば、ECTのシリアルナンバーが記載されていない、本当の意味での『非売品』という事だ。
この話題は、当たりか外れで言えば、十中八九、いや、九分九厘以上に当たりだと言えるだろう。ECTは、発売開始から瞬く間に売り上げを伸ばし、多数予約待ちの状態が今後しばらく続くらしい。それだけ、性能の良さを実感した人が多かったのだ。
いくら『最新技術使用超次世代型携帯端末ECT!』というチラシやCMや広告ポスターを見ても、第一印象は、みんな等しく「漢字多いなぁ」だろう。
いや、その手が得意な人なら、話は別だけど。さすがに平仮名もカタカナも無い中で、一番後ろにやっとローマ字が入るのだ。その手が不得意な人であれば、漢字が多いどころか「これは何語だろう」と、首をひねって頭をねじろうとするだろう。
その中で爆発的な売り上げを勝ち取ったのは、本当に凄い。
開発者(CMに出ていたのは代理人だった)が言うには、ECTのテストプレイヤーのような人が約50人いて、その中に情報の散布を得意とする人が居たからだろう、と分析していた。
その中に、私は含まれていない。そして、空音君も、その類ではなかった。
「凄いよね。僕の友達が情報を広めた張本人みたいだけど」
「そ、そうなの」
「うん。金髪でー、左が蒼で右が碧の目でー、右側の前髪を黒くて大きな女性用のヘアピンで留めていて。うん。そんな感じ・・・・あ、ちょっと背が低い」
そのお友達って何か外見的特徴がありすぎるのではないだろうか。と、頭の中で、特徴の数を指を曲げて数える空音君のお友達とやらを思い浮かべてみる。
まず、金髪で両方違う目。で、わざわざ女性用のヘアピン、と言うのだから、お友達は男性だろう。で、背が低い、と。
・・・・。元も子もない台詞だけど、写真を見た方が早そう。
「それでね、何か、開発者自身とも親友だって言っていて、紹介してもらえることになってさ」
「え・・・・本当?! 凄い!」
私は意識せずに、驚愕に声を震わせた。何と言っても、先程まで少し長く語っていたECTの開発者が、その金髪のお友達と親友だと言うのだ。そしてその人に会わせてくれる、とその友達が言っている。歴史を変えうる人物との対面。ちょっと、憧れる。
というか、人見知りの私なら辞退しているところだけど・・・・。空音君って、大人しくて人に意見が出せなさそうだけど、結構積極的な部分もあるみたい。
などと、余計な事を考えていた私には、十分な心構えが出来ていなかった。
本当に驚くべきは、その後の情報。
「―― 実は、ECTの開発者って、僕達と同じ高校の、同じ新入生らしいよ」
「・・・・え・・・・っ。それ、本当なの?!」
最早、驚きすぎて、逆に冷静になってしまった。
今こんな風に話していられるのは、その所為だ。
ただ言葉の後絶句してしまったので、空音君に『私は冷静です』なんて言っても信じてもらえ無さそう。
「本当だよ。情報規制はされていないから、って事で調べたら、本当に、僕達と同い年。しかも同じ青桐高校への進学が決定しているらしい」
自慢げに言うのもムリはない。だって、ECT・・・・つまり、最新技術を駆使して生まれたと聞いた、今私の目の前に置いてあるこの端末は、私達と何ら変わりない高校生。いや、厳密に言えば、まだ入学式を済ませていないので中学生である人間が作り出した代物。
当然の如く、そんな物を同じ年の、いわゆる『子供』が作り出したと聞いても、すぐに『天才児だねー』などと悠長に構えていられるはずが無い。大抵は『嘘だ』とか『ええっ?!』と嘲笑したり驚いたりするのが、普通である。
私は日頃広告チラシやテレビは見る方だけど、少なくとも、今言われたような情報は、それらに流されていない。つまり、公然の秘密と呼ばれる情報。
「青桐高校に飛び級制度は無いし、同じクラスになれるかもしれないね」
「・・・・はぁ」
ECTの開発者・・・・。今年高校生になるというのは今初めて聞いたけれど、同じクラスになれる可能性まで私にあるとは。
天才の名前は―小室 紫苑―。その存在は、2ヶ月前からこの時までで、既に知らない者が赤ん坊と、よほど機械から疎遠な立場にいる者だけだ。科学者や技術保持者で、この名を知らない人は、既にこの世にはいないだろう。
その人と知り合いどころか、友達になれる可能性があるのは、少し、いや、大いに幸運な事。まぁ、私に運が在るとは思えないけど。
「あ」
窓の右側に座っている空音君が、イキナリ、私よりも上の方を向きながら声を発した。
「な、何?」
「もうお昼の時間。食堂車は混むだろうけど・・・・行く?」
屈託の無い笑みを浮かべて、空音君はご飯に誘ってくれた。そしてもう一言、付け足す。
「食事は食堂車の上にある展望室でも出来るみたい。ECTの充電も出来ると思うよ?」
ECTが電池切れだという事は、ただの一言も言っていない。けど、私の目の前にあるECTは、厚さが4mmしかない角の近くで、赤いライトが点滅していた。
それは、充電しないと後5分で電源が切れますよ、の合図。
「僕はどれでも良いよ?」
どれでも、というのは、その展望室で食べるか、食堂車で食べるか、テイクアウトでこの部屋で食べるかというものだ。それは、私の脳が理解出来ていた。
空音君と話しているのは楽しい。けど、此処はあくまで、虹尾島に着くまでは私の部屋。おそらくしばらくしたら会話も少なくなるだろうし、ECTを使う機会が訪れるだろう。その時までに充電が完了している可能性は、皆無。
私の答えは、YESだった。
◇ ◆ ◇
汽車の旅は、私の島から数えて25個目の島、つまり、25時間を経て終了した。出発したのが昨日の7時。到着したのは今日の午前8時。前にこの島へ来た事のある空音君と一緒だったおかげで、迷わずに寮へ辿り着く事が出来た。
当然の事だが、男子と女子で寮が分かれている。ピンクの壁が女子寮で、青い壁が男子寮。
さすがに町の案内は出来ないらしい空音君は、寮内の探検と、荷物整理を行うらしい。私も、これといってする事も無いので、同じような状態だ。
小学生の内から寮を使う人(例えば孤児など)もいるらしく、基本的に高校生未満は2人から3人で1部屋を使う事になっている。高校生以上大学生以下の人は、1人か2人で一部屋割り当てられる。私の場合、2人で1部屋を使うタイプだ。
ちなみに、部屋の割り当ては、一種のクジ運みたいなもので決まるらしい。
「でもなぁ・・・・」
そして、この部屋を使う人は、まだ来ていない。この部屋を使うもう1人は、中学生の時に使っていた寮から移って来るとの事だが、荷造りが遅いらしい。
後は、2つあるタンスと机。どちらを使えば良いのか迷ってしまう。どちらをどちらが使うのかを決めて、それから整理する物ばかりがダンボールに入っていて・・・・。本当に、もう1人が来ないと話にならない状況まで来ていた。
― コン コン コン ―
と、そこにドアのノック音。女子寮は男子禁制なので、当然、空音君じゃない。けど、ノックのリズムが全く同じ。一瞬驚いてしまった。
「は、はい!」
驚いた所為でワンテンポ遅れながらも、ダンボールを両手に抱えたまま返事をする。
黄緑色のカーペットが敷かれた床にダンボールを置くと、すぐさま内側に開けるタイプのドアを開ける。その向こうには、ダンボールを2つ、プルプル震える手で抱えている人が・・・・。
「わわっ! て、手伝います!」
「あ、良いよ、大丈夫~」
私はのんびり答える少女から、ダンボールを1つ、奪うようにして持ち上げる。少女の、腰まである長いツインテールが揺れた。
「・・・・」
「・・・・」
ダンボールが無くなったおかげで、少女の顔が見える。
彼女が、そしておそらく私も、驚きに満ちた顔で互いを見つめ合った。
「「ああーーーーーっっ!!」」
見つめること5秒。お互いに一歩後ろへ下がりながら、驚愕に満ちた叫びが廊下に響く。
「え、えっ。藍菜ちゃんだぁっ。わぁい。相部屋?」
「あ、うん? 部屋の番号306だけど」
「わぁっ。私も! やったぁ!」
少女は、祖母譲りらしい蒼い瞳を細めて、微笑みに近い満面の笑顔を浮かべた。
私は、この少女に会った事がある。会ったというか、友達以上の関係だった。
「わぁあ。偶然だね。同じ学校に通えるとは聞いていたけど、まさか同じ部屋になれるなんて」
少女は、今度はふんわりとした優しい笑みを浮かべる。
彼女の名前は―紺青 葵―。私の親友にして、ECTを持ってきた人。私の親が柄にも無く「夏休みにバカンス」なんて事をした小学校3年生の時。浜辺で焦りながら水を探している彼女に、キンキンに冷えた水を、私が差し出したのが始まり。
それからは、感謝のお礼をするために住所を教えて、から、お友達になろう! になって、メールのやり取りしようよ♪ という言葉から、今度そっちの島へ遊びに行きます! になった。結果的には親友になったわけだけど、どことなく、強制された感が否めない。
この経過は、全て彼女と出会ったその日の夜に行われていた。
「葵。机とかタンスとか、2個ずつあるけど、どうす」
「右」
キラリと光る目が、私を見た。やや下に傾けられた顔が、自然と視線を、俗に言う『下から目線』に変えている。その所為かちょっと睨まれ気味に見えてしまった。
「全部?」
「うん。私、右だから」
何で右なのか、と問う前に、葵は小さく「あいつの右が蒼だからねー」と呟いた。あいつ、が誰なのかは分からないし、何の右なのか、も分からない。
「あの、葵。それって」
「藍菜ちゃん、待たせたお詫びもしたいし、寮を見て回ろうよ♪」
・・・・人の話を全然聞こうとしていない。先程から私の声にかぶせるような感じで話す葵は、何というか、見るからに楽しそうだ。
ツインテールというか、ふわふわとしたおさげは、葵の目の色と同じ蒼色のリボンでまとめられている。オレンジ色の、襟口の幅が広いタイプのカーディガン。その下に、クリーム色の長袖ワンピース。膝上丈の黒いスパッツ。そして、黒いハイソックス。
上靴は寮から指定されていて、見た目はローファーに似た、布とゴム製の靴だ。寮内でしか履かない茶色の靴。男女共用の中庭も、この靴で出入りできる。履きやすいので、まだ2回しか履いていないのに、ずっと前から履いているみたい。
男女でこの靴は違うと葵は言った。女子用は柔らかく、丈夫に作られていて、男子用は少し固めに、頑丈に作られているらしい。動く範囲の違いから、だそうだ。
ちなみに。この履きやすさは、もし部屋の中にいる時に災害が起こった場合、少なくとも足をケガしては元も子もないという心遣いから、だそうだけど・・・・履く時間も無い時は、その厚意を裏切っているようで、罪悪感を覚えてしまいそうだ。
「―― で、ここが食堂ね」
葵は自慢げに言って見せた。男女共用の所為か、とても広い場所だ。先輩っぽい背の高い男性から、背の低い小学生らしい少女から。たくさんの人で賑わっている。
無論全員学生で、食堂で様々な料理を作るおばさん方が大忙しだった。
春休みは、正月後で特に帰る必要が無いと考える人が大勢いるらしく、本当に大賑わいだった。カレーやハンバーグやオムライス・・・・。和洋中で作る人が違うようだけど、手の空いた人から他の料理を手伝うという仕様になっているみたい。
私は寮の食堂と聞いて、勝手に恰幅の良いおばさんが働いているものだとばかり思っていた。けど、若い人が数人混じっているようだ。全員合わせて6人・・・・や、7人かな。中には男性もいる。
おばさん、と呼べる人は1人だけで、同時に、作られた料理の味見をし、殺到する学生達の注文を捌き、更に自分自身も料理を作るという、人間にしてみれば離れ業とも呼べる偉業をなしていた。それをただ呆然と立ち尽くして見ていた私の隣から、葵が離れる。
「おはようございます~。特製オムライスと今日一番のお勧めメニュー、おねがぁーぃ」
「はいよ、葵ちゃん! ちょっと待ってな! ・・・・注文聞こえたね?!」
「「イエッサー!!」」
凄い。ある意味、プロ並の統率が取れている。
「お腹空いたね。朝ご飯まだでしょ?」
「あ、うん。よく分かったね」
「9時だから」
葵は、先程から意味不明な返答ばかりをしてくる。言葉足らず、というものだ。朝ご飯を食べていない、という事を、何故知っているのか、という問に対する答えに、9時だから、はおかしいと思う。
「あのぅ、どうして9時なら分かるのでしょう」
「汽車じゃちょうど8時に朝ご飯開始でしょ? で、藍菜ちゃんが此処に来たのは、迷わず来られたから、8時30分。で、それから私が部屋に行くまでずっと荷物整理をしていただろうから、かな」
食堂までの案内で、寮に辿り着いたのが8時30分だと言った覚えがあった。けど、それ以外の事は何も分からない状態でそこまで予測しましたか。
寮案内で10分を使って、只今午前9時14分。朝ご飯には遅すぎるし、昼ごはんには早すぎる時間帯。でもお腹は空いているので、確かに何か食べたいかも。
「はいよー。特製オムライスと、今日のお勧め、ハヤシライスね」
「わぁい。ありがと♪」
葵はそれぞれ料理が乗せられている2つのトレイを運び始めた。私は、葵がトレイを運び始めた途端に、おばさんに手招きされる。
「ほいよ、新入りさん。アタシはムラノ。まぁ料理長みたいなモンさ。これからがんばりな」
「あ・・・・ありがとうございます、ムラノさん」
わざわざ名乗ったという事は、名前で呼んでほしい、という事。私はそう解釈して呼ぶと、ムラノさんはニカッと笑って、次のお仕事へ行ってしまった。
手渡された2個のガラスのコップに入っているお茶を手に、葵を追いかける。誰もいなければ100m層が出来るのではないかと思う広さの食堂で、葵をすぐ見つけられたのは奇跡に近かった。
「ムラノさん、何くれた?」
席に着くなり、葵が興味津々、と言った様子で私を見つめる。ムラノさんという呼び方は、当たっていたみたいだ。良かった。
「お茶だけど・・・・」
「わぁ、お気に入りの証だね! ムラノさん、おばさんって呼んだ人にはジュースをプレゼントするから」
「それ、別に良いような気がするよ?」
「カレーとかの時はね。でも、和食なのにジュースって、あまり合わないでしょ? 男子は毎年の恒例行事だと思っているみたい。とりあえず、あのツンツン頭の人、見ていようよ」
と、葵の指、その延長線上にいるツンツン頭の人(男子生徒)を見る。
彼はメニューを見つめると、ムラノさんに「おばさん、お勧めをください」と言った。お勧めって、確かハヤシライスで・・・・。
『はいよ、鮭定食。料理長のムラノだよ。よろしく。お茶とジュースを付けておくね』
『え、いや、その』
「・・・・ね?」
キラキラとした葵の笑顔とは裏腹に、見た目は先程と変わらない笑みを浮かべているのに、どうも先程より黒い笑みを浮かべるムラノさん。なるほど。その人とその日でお勧めメニューは変わるのかぁ。
「お勧めは、あくまでムラノさんのお勧めだから♪ あ、次はあの人で!」
面白がっている葵。私はハヤシライスが冷めないか心配しつつ、葵の視線の先を見る。
―― あ!
「空音君だ」
「ほぇ? 知り合い?」
「うん。寮まで案内してくれたのは、空音君なの。あ、でも、同じ島の出身ってわけじゃないよ?」
私は挙動不審に陥りながら、訳の分からない言い訳を述べた。何に対する言い訳かも分からずに。
空音君は、淡い緑色で半袖のポロシャツと、薄い青のチノパンを着ていた。デザインはいたってシンプルでパッとしない感じが、逆に目立っている。周りの人で、薄い色合いの服を着ている人がいないのだ。
『あの、すみません』
『はいよー』
あえて名前で呼ばなかったのか、特に何も考えなかったのか、禁止用語である『おばさん』は言わなかった。セーフ。
『今日のお勧め、で、お願いします』
『はいよー。すぐに・・・・っと、もう出来たのかい? アタシはムラノだ。よろしくねぇ』
『あ、はい、ムラノさん。わぁ、美味しそうなハヤシライスですね。ありがとうございます!』
とそこで、さりげなくムラノさんが、ハヤシライスの載ったトレイにお茶の入ったグラスを置く。空音君はそれに気付くと、ちょっと慌てた感じでその場に留まった。
『あ、ありがとうございます』
『ふむ・・・・気に入った! おまけだよ!』
そう言って、3つの小皿に盛られた、真っ白なプリンがトレイに乗せられた。ムラノさんは私達に視線を向けて、空音君にもアイコンタクト。空音君も、私達が空音君を見ている事に気が付いた。
「―― 凄いね、ムラノさんにとても気に入られるなんて」
「葵さん、こんにちは・・・・じゃ、ないか。えぇっと、奇遇だね?」
ピクリ、と、耳と、あるはずもない触手が動く。
「えっ、2人とも、知り合いなの?」
「コッチの台詞だよ。葵さんと知り合いだったのか。だから、あんな特殊なECTを手に入れられたのか・・・・。納得したよ」
空音君はしきりに頷いた。プリン入りの小皿を私達のトレイにそれぞれ乗せて、それから席に着く。 緊張していたのか、疲れていない様子なのに、空音君は溜め息を漏らした。
「まぁ、コッチは何も言っていなかったけどね。藍菜ちゃんには、ただ伝手、とだけしか」
「なるほど。更に納得。藍菜さんだったら、そういう事も言いそうだし」
何か、勝手に私の人物像が作られている。・・・・当たっている気がするから否定できない。
「というか、2人の関係って・・・・何?」
私は交互に葵と空音君を見て、それだけは聞きたいという気持ちを一杯込めた言葉を放つ。
もっとも、込めているだけで相手に気持ちが伝わるのであれば、この世界で起きる全ての事柄、その大半が上手く行くだろう。
「僕、前に青桐町に来た時に出来た友達からECTをもらった、って言ったでしょ?」
「う、うん」
「その友達と、その時一緒にいたのが葵さん。つまり、自然とECTの開発者さんとお友達、っていう関係に当たる人」
と、いう事は。葵って、空音君のお友達である『金髪の人』とも知り合いかもしれないの?!
・・・・あ、驚くのはそこじゃないか。
「ねぇ空音君? 藍菜ちゃんの質問に答えられていないよ」
「あ、そっか。そうだね。えぇと、関係としては友達・・・・かな?」
「ちょっと。何でそこで疑問形になったのか、理由を聞かせなさい。理由を」
ケンカにも見えるやり取りを、心臓の鼓動が速くなりながら、何も出来ずに見つめる。それほど熱くなりそうにもない、多分他愛の無い挨拶的なものだろうけど、私はどうしてか、慌ててしまった。手を膝の上に置いて、アワアワとしてしまう。
それに気付いたのか、2人は目を見合わせた。
華やかな食事は、この後結構長めに続く。
・・・・そういえば、楽しいのと同時に、女性2人と男性1人の組み合わせに違和感を覚えたのは、私だけじゃないみたい。
空音君を睨む複数の視線を気にしながら、その調子で夕食も盛り上がった。