再・紅
昨日の出来事を思い返す。
・・・・初対面、みたいな態度をとってしまった。
一応、お久しぶり、という事だよね。昨日のあの出会いは。そう言えば、紫苑君、一度も「初めまして」なんて言わなかった。という事は、少なくとも紫苑君は、私の事を覚えていた、という事だ。うぅ、忘れていたのは私だけ? 葵の印象が強すぎて、っていうのはただの言い訳だし。
「―― 大丈夫?」
「ふぇっ、あ、うん、大丈夫」
「そうは思えないけど・・・・。まぁ、良いや」
いつの間に戻ってきていた紫音は本当にどうでも良いという感じで、水を入れ替えた花瓶を置いた。藤黄君はいつもより若干嬉しそうに「ありがとう」と言うと、紫音もまた「いやいや~」と軽く返す。
ただ、先程出た証言によると、この人は紫音であって紫苑君ではない。つまりは、情報不足。葵は先程、暗に「紫音は自分の幼馴染ではない」と言っていた。つまり、少なくとも小学校の頃から一緒、という訳ではない。
もしかして、元々青桐町に住んでいる人なのだろうか。だとすれば、藤黄君と出会ったのも3年ぐらい前という事になるのだろうか。
で、こんなに仲が良いと。
・・・・。
「凄く羨ましそうだね、藍菜さん」
「そんな事は無いかな」
私が内心ドギマギさせて言うと、紫音はクスクスと笑った。
「藍菜さんって、即答する時は大抵焦っているタイプでしょ」
本当に楽しそうに、それでいて的確な言葉。硬直して動かなくなってしまった身体は、紫音の問に対する素直な返答と化している。
そんな硬直しつつ顔を赤くしている様子おかしかったのか、藤黄君は真っ白なベッドの中で、笑いを堪えながらコロコロと狭い空間を行ったり来たり。葵も私に背を向けて、口に手を当てている。そんな状態で、「素直なのは良い事だよ」なんて震えた声で言われても、困ってしまう。藤黄君ならなおさらだ。
「まぁ、そうだね、素直なのは良い事だよ」
「紫音まで・・・・」
「ま、ま、怒らないで、ね。良い事を教えてあげるから」
楽しそうにクスクス笑いながら、どことなくすまなそうにしながら、紫音は私の耳に顔を近付けた。
それだけで、それがいわゆる「内緒のお話」なのだという事は理解出来た。
葵達には言わないような、そんな何か。
「・・・・時計の針には、長針と短針と、秒針があるだろう?」
小さく頷く。
「それが全部重なる数字って、12だけだよね」
再び、小さく頷く。
「でもさ、実は不思議な時計があってね」
三度、頷く。
「その時計が指し示すのは、時間じゃないよね?」
・・・・え?
何故に疑問系?
「それが指し示すのは、時間じゃ無くて・・・・」
・・・・。
「『 ―― 』だから、がんばらなきゃ。ね」
「――・・・・っ!!!」
怪しさと企みを秘めた笑み。
背筋に寒気が走る、そんな怖い何か。
リピート。
紅い世界。
白い少女。
ハッキリしたその映像が、夢だったと。幻覚だったと。
そう、信じたかった。
けれども、それが夢ではないと。それが現実であったと。
信じるしかなかった。
何処からか取り出された、白銀に輝くナイフ。
微妙に、淡い青の光を纏っているような気がする。
花の名を持つ少年は、光沢のある薄い刃を、そっ、と静かに、首へと押し当てた。
そして。
目の前で不適に、楽しそうに、そして怪しげに笑う少年は、証明した。
己の服と、すぐ横にあった、真っ白なベッドを、汚して。
グロイ表現、結構考えるのが苦手です。
もっと上手くなりたいなぁー。