恐怖の洋館 ー円卓の怨念編ー
タイトルから察しの通り、この物語はホラーではなくコメディです。
しかし主人公がもっと弱ければ本当にホラー作品として成り立つくらいの設定の完成度を目指しています。
町はずれの洋館には化け物が住んでいる。
そんなベタなうわさを信じて私こと阿武野は友人である五人の仲間とその洋館まで来ていた。
「早く入ろうぜ、ビビってんじゃねぇぞお前ら」
そういうのは自称リーダーである野原だった。
早速野原は洋館の扉を開けた。
私たち五人は不気味な洋館に足を踏み入れた。
「不気味ですね」
そういったのは原田、冷静だが馬鹿だ。
「早くかいりたいよぉ」
そう舌足らずにしゃべるのは原田の妹、真理ちゃんだ。
「……わりぃみんな、トイレ行ってくる」
そして、最後にそう言って一人そそくさトイレに向かおうとしていたものがいた。
それこそ、何を隠そうわれらが主人公、剛力だ。
「早く帰って来いよ」
「ついてくぞ」
私は剛力についていくことにした。そして、その判断が正しかったと後になって思うのだが、今は関係ない話だろう。
「悪いな阿武野、ここに来る前たくさん飲んだからな」
「流石にビール十本は飲み過ぎだよ」
私たちは洋館の入り口に戻ろうとしていた。
そんな時だった。何か物音が通り過ぎようとした横の部屋で響いた。
「……なんだ? あいつらもう探索してんのか?」
何食わぬ顔で剛力はドアを開けた。
しかし、目の前に移った光景に私は絶句した。
―おのれ、おのれ、かえせ、かえせっ!-
しわがれてミイラのような者に、見知らぬおっさんが刺されていた。
恐らく自分たちよりも先に入った人なのだろう。
「たずげで! だずげでぇ!」
「阿武野下がれぇ!」
ミイラがこちらに気が付いた。薄気味悪い笑みを浮かべ、槍を構えてこちらに突進してくるのが見えた。
咄嗟の判断か、剛力は扉を閉めて横にひらりと身をかわした。
その直後、槍はドアを突き抜けて刺さった。
「な、なんだ!?」
「どうやら、とんだ修羅場に巻き込まれたみたいだな」
「どうする!?」
「どうするだと? 決まってるぜ!」
「逃げるのか!」
「売れた喧嘩だ! だから徹底的にぶん殴る、相手が何だろうと、だ!」
「えぇ!? そんな馬鹿な!」
そういってる間にドアをこじ開けてミイラがこちらを睨んでるのが見えた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
そんなミイラに、壮大に蹴りをぶちかまして剛力は部屋の中に飛び込んでしまった。
「そんな馬鹿な! 普通ホラーゲームなら逃げるとこだよここ!」
私は慌てて彼の後を追った。
部屋に入ると一方的にミイラを殴りまわしてる大男の姿があった。
「てめぇがなんかは知らねぇ! だがな、槍を握れるってことはこの世に実体があるってことだ! それなら殴りつぶせるってことなんだよぉッ!」
「なんてこったい! 俺の友人は脳筋だった!」
逃げることはあっても逆に殴りに行くこんな斬新なホラーがあるだろうか? いや、こんなことをすることができるのは、恐らく剛力が剛力たる所以みたいなものなのだろう。気にしたら負けな気がしてきた。
改めてみてみればもうすでに逃げ惑う敵を蹂躙する巨人の構図ができ始めていた。
「さっきまであった恐怖が明後日の方向にとんでっちまったぜ!」
ミイラがどこかに消えた。
恐らく勝てないことを悟ったのだろう。
「逃げられた……。まぁいい、ところでなんだここは。円形のテーブルに十三個のイス、まるでアーサー王の円卓の騎士にでも出てきそうな配置だぜ」
「いきなり核心を突くなよ! たぶん当たってるけど、それはじっくりと謎を解いてからわかるのがお約束だぞ!?」
「え、そうなの?」
いろいろ雰囲気ぶち壊しな所に空気の読めないマジレス、しかし皆さん、だからと言ってこれが一応ホラーであることには変わりないし、彼がこの館を攻略する主人公であることはなにも揺るがないのだ。
「ん? なんだこれ、剣か」
―剛力は騎士の剣を手に入れたー
「やった! 物語が進展したぞ」
ボキッ。
―騎士の剣が折れたー
「何してくれてんだぁ! これたぶん重要だぞ!」
「俺には拳があるし」
「それがカギになって道が開けるのがホラーのお決まりなのぉ!」
「マジか。ボンドでくっつくかな」
かくして、私たちの波乱の館攻略が始まったのだった。
感想などあればお願いします!
あと、雰囲気は終始こんな感じなので、有名どころのホラーものみたいな緊張感を求めている方はあきらめて楽しんでいただければ幸いです。