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その9

「だよなー」


結局のところ、部屋の中に抜け穴が! という甘いものはなかった。いずれ、逃亡する場合は、外からの鍵が閉まっている扉があいたときに、扉のはしに立ち、入ってきた相手の頭を花瓶で殴るしかない。そして相手が怯んだ隙に、部屋からでていく。正面突破だ。


「……できるかっつの」


彼女は投げやりに言うと、大きく息を吐いた。部屋から出たとして、そう安安と外にでられるはずがない。


(真っ直ぐ進むだけだったらよかったんだけどなー)


いくつもある分かれ道のどれを選べばいいのか。一つでも道を間違えればすぐに捕まるだろう。それに塔の外は森だ。森がどの程度の広さか、どういった生物が住んでいるのか。人のいる場所にいったとして言葉はどうするのか。彼女にはわからない。様々な不安要素が浮かんできた。未知だらけだ。


(逃亡される警戒もあるかもしれないよなー)


今はまだ厳重警戒として、見張りがいるかもしれない。彼女は今はまだ時間をおいた方がいいと決めた。様子見だ。気を張り詰める必要もないだろう。彼女は机のノートから視線を投げた。


(たぶん、時間はいっぱいある)


重く、近づくとくしゃみが止まらなくなる本棚。それまでに、体力をつけたほうがいい。本棚を持ち上げることができるくらいに。少女がいる限り、自分に被害がくることはなく、時間はたくさんにあるという自信が意味もなく溢れてくる。


そうして彼女は気持ちを切り替えるように、机の上に置いたB四サイズの大学ノートを手にとった。色があせ、黄ばみ湿っているとこからずいぶん古いものとわかる。持ち主が学生であったのが伺えた。現代国語、とボールペンで書かれている。


(高校生、かな?)


持ち上げられなかった本棚の下に、鉛筆と一緒に隠されてあった。おそらく、自分と同じように牢屋にいれられた日本人。ノートの古さから持ち主はもういないのだろう。不安になる考えは、やめ彼女は寂しそうに笑った。


裏表紙には、二年八組二十一番。名前の部分は上から何重にも線を引かれ読めない。中のページを今から調べるために、最後にとっておいていた。そして今から調べるとこだ。


彼女はベッドに座り、吸い込まれるように表紙を開いた。


はじめまして、このノートの元・持ち主です。

どうか、あいつらの手に流れずに同郷の者に渡ることを願います。

同郷の者の、気が少しでもまぎらわせますように。

いつか、


「……」


文字が途中で終わっている。彼女は構わず、ページをめくる。めくる。めくる。めく――


「――っ、……え!?」

(タイミング悪!)


彼女はノートを落としかけた。コツコツ、と足音が近づいてきたのだ。彼女は気がはやるのをおさえ、ベッドから立つ。ベッドの中に隠そうとしたが、すぐにやめる。忘れていた鉛筆を持ち、ノートと一緒に急いで本棚の下に隠した。

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