その6
たゆたう意識が引き戻されていく。目が暗闇になれるまで、彼女は立ちすくんでいた。
「○○○○」
「○○○○○○」
「○○○○」
ぼんやりとしていたおかげか、暗闇のなかに少しずつ形ができていく。かすかに見える視界は、明りがあったときと、変わらない。王子様然とした青年がお供と瀧をみて話しているのだ。
(あ、この人)
そして、思い出した。王子様然とした青年はさきほどの第三者である彼だ。
(そんな、言葉が理解できないんだし・・・・・・)
彼らは彼女に聞こえないよう、ひっそりと会話をしているつもりかもしれないが、静かな牢屋には小さい声でも聞こえるのだ。意味はわからないが。彼女は試しにと、彼らに話しかけてみた。
「ハロー? 私はどうなるんですか?」
「○○!?」
「○○○○」
「○○○○」
ぎょっと体を強ばらせ、彼らは彼女をみた。表情から彼女に話しかけられるとは思っていなかったというのが伺えた。彼女はもう少し続けることにした。
「グーテンターク? オーラ? ニーハオ? ボンジョルノー? ゴーオンダン? フーテモルヘン? ラーバスリーダス?」
「○○○○○○」
「○○○! ○」
「○○○○!!」
彼女は思いつく限りの挨拶の言葉を口にしてみたが。すぐに諦めると、苦笑した。
「あー、もし。もし、私の話す言葉の意味がわかったら右手を頭の上においてください」
結果、彼らの誰ひとり彼女の言葉の通り行動するものはいなかった。彼女が言葉をいうたびに、困惑した表情になっていくか、冷静に理解しようとしているのかなど複数みられた。彼女はコーヒーを飲んだときの、苦さを思い出した。彼らの言葉がわからないように、彼らにも彼女の言葉がわからないのだ。彼女はベッドのシーツを握りしめる。
「○○○○○!」
「○○○○○、○○○」
「○○○○○○!!」
(実験動物みたいだ)
彼女は彼らの誰かが言葉を理解しているだろうかと、目を合わせ探るも、すぐにそらされるか、相手も同じように彼女の瞳から何かを探ってこられるかのどちらかだ。彼女はそらされれば、苦笑し、探られそうになれば口角を上げた。
それからしばらくして、彼らは長く話すと満足そうにでていった。残された彼女は、一人、ベッドで横になりながら、寝ることにした
「あー、暗いままかー」
が結局かなわなかった。さっきまで寝ていたのだ。どれだけ目をつむっていたかわからないが、無駄だった。目元をこすりながら、残念そうにいった。目を開けても現実に明りはなかったからだ。ずっと瞼をとじていたせいか、夜目がきいている。彼女はベッドからおりると、靴を履き部屋の真中にある椅子に座る
「っ」
が、すぐに立ち上がった。冷たいのだ。彼女はそっと指先を座る面に伸ばすと、指先はすぐに冷えた。
(地面はもっと冷たいのかな・・・?)
靴の中は冷たいが、椅子ほどでもなかった。苦笑すると、椅子に座り直した。そのうち体温で温かくなるからだ。決心すると冷たさも慣れていく。彼女はふう、と息をつくと、天井にむけ左腕をのばし、腹に力をこめ、口を大きくあけた。
「これからについてかんがえるぞー! おー!」
「……」
「…………」
言った途端、彼女の全身が恥ずかしさで熱くなった。自分を鼓舞するために、声を張り上げた。そうなると確実に予想していたとはいえ、恥ずかしいものだ。なんだかおかしくなって彼女は大声をあげて笑った。