その4
「○○○○○!」
直後。どよめく彼らの声にまじり、第三者の声が飛び込む。それは彼女でも少女でもない。彼らの声が騒がしくなった。彼女は少し背筋が冷たくなったきがして、驚いた。少女は痛々しく顔を歪めているのに、前にたった。彼女をかばうように。
「○○○」
一陣の強い風が彼女の頬を撫で、風よけになった少女に風がきつくあたっただろう。少女の髪がなびいた。彼女は少女の横顔には、どこか口もとを寒さで震わせているのがみえた。
「○○○、○○○○○」
「○○○○!」
「○○○! ○○」
彼らと第三者の声が大きくなる。彼女は少女がどこをみているのか気になった。背中から伝わる少女の雰囲気が――。彼女が考えようとして、思考が止まった。
「○○○!! ○○!」
「え」
(日本語じゃ、ない)
彼女の目が大きく見開いた。凛、とした鈴が響くように、少女の口から彼らと同じ言葉がでた。彼女はもう一度周囲に彼らと第三者と少女と自分のほかに人がいないかをみまわすが、いない。気づいたら、彼らと第三者は少女をじっとみている。その視線の熱は強くなっている。
「○○?」
「○○○○!!」
「○!」
「○○○」
「○○」
彼女と少女は言語を聞き流して黙っている。彼女はあいている手で少女の背中をなでながら
「言葉喋れるの?」
「っ」
もうすでに伝わっているかもしれない不安を隠して、彼女は少女に問いかけた。彼女の問にびくり、と少女の肩が跳ね上がり、つられて彼女の肩も上がった。
(あー、きくの失敗か?)
彼女は少女が言葉を自覚して喋っていなかったと判断した。
「あ、あの」
「うん?」
さっきとは打って変わり、少女の震えた声が彼女の耳にはいる。
「わ、わたし、あの」
「うん」
「今、日本語っ、喋っっ、て、ます、よね・・・?」
「うん、日本語だね」
彼女はゆったりといった。少女の声は風に吹き消されるように小さく、掴んでいる指先がぷるぷると震えをつづけている。彼女は自分に冷静に冷静にと心の中でいいながら、少女が落ち強くように、これ以上不安にさせないよう、少女の頭に目があるわけでもないのに微笑む。