その1
螺旋状の階段をのそり、のそり、とおりていく。手すりはない。彼女はつまずかないよう、足元に気をつけていた。
「○○○○○」
彼女より数段先、おりている男の足がとまった。彼女も続いて止まると、男の前には灰色のドアがあった。
(私、どうなるかな?)
まだ、これが夢の中ではないという認識が薄い彼女は大きくあくびをした。もう、ここから出ることは難しいのだろうと、彼女は理解していたが、やはり現実味がない。もう一度、あくびをする。
「○○○○○!」
男が灰色のドアを手前に引く。ふわり、と部屋の甘い匂いが鼻腔をかすめ、彼女は首をかしげた。
(あれ、なんか甘い?)
部屋の中は一応手入れがされていた、ようだった。空の本棚が壁に沿うようにあった。木の机と椅子が真中に一組置かれ、机には瓶にいけられた花が一輪。ベッドは本棚の横にある。
(真っ暗な生活かなあ)
部屋自体に明りはなかった。
「○○○!」
「はいはい、わかったよー はいるよ」
なんとなく、彼女は男の言葉を視線で理解すると間延びした口調で、部屋へと足を踏み入れた。ふわり、と鼻腔を掠めた甘い匂いが強くなる。
「○○○! ○○○! ○○!」
バタン、と扉のしまる音がし、部屋は薄暗くなった。カンカン、と階段をのぼる足音で男が塔から去っていくのが彼女にはわかった。そして、次第に音が聞こえにくくなるにつれ、彼女は手のひらをきつく握りしめていく。そして、音が完全になくなるまで、足元をみていた。
歯を食いしばり、彼女は壁を叩こうとするも
「っ!」
衝動をすぐに理性がとめた。彼女は怪我をしても手当などできない、と自分にいいきかせる。腹を立てても、なにかが変わるわけではない。彼女は気持ちを切り替える。涙をのみこむよう、喉をこくりと鳴らし、深く息をすう。深く、深く。しばらくして、彼女はゆっくりと息を吐いていく。彼女は繰り返し、気分を落ち着かせると、ベッドで横になった。