#5
女―小さな声。「…“コール・ド・ガール”です。。」電子レンジが終わりを告げる。
ドアへ急ぐ心をチャイムは柔らかく鳴りひびき、せかす。解錠すると
目をあわせないで。
現れた独りの若い女性
〈こんばんは~…〉
「‥あ。こんばんは‥どうぞ」
スレンダーでかわいい―
素直に・そう思った。自分の歳に比べ、幼すぎるその顔立ち。ヒールから解き放たれた素足。フローリングに重なる
「―スリッパ使われますか?」
〈あ。はい‥。〉
少しごわついた茶色い髪。マスカラで補強された睫毛、虚無的な瞳に、黒を基調とした服はバランスよく似合っていた。
靴で余白がない玄関。短い廊下の脇に並んだ焼酎のペットボトル。ミキサー。絨毯がいびつに引かれた居間。その中心に真っ白なちゃぶ台。隣にベッド。奥にはスタンドライト。右手の壁に沿って棚が並んで生活観を演出している。
そして、閉じられたベージュのカーテン。
橙色と緑の座布団があるけれど、女は絨毯にどんと腰をおとした。タバコの薫り、服から臭う
ベッドに座ろうとする神谷。女から後ろ向きで話しかけられる
〈何分ですか?〉
「…え。80分で。」
キモチは立ち止まりながらも、ベッドに到達していた
おもむろに鞄からケータイ取り出す
〈80分でーす、はーい…。〉
何気なくテレビをつける神谷の手。
〈あ。ワンピースやってる。これ車んなかで途中まで観てたんですよー〉
「そうなんやあ‥映画っぽいね。ちょっと待ってて。」
神谷は目の前で未開封のコーヒースティックとお菓子を袋から取りだし、
「いる?」
女は言葉足らずに
それでも・静かな微笑みを見せた
(ごとごと―お湯が湧いてコップにほとばしる熱々のカフェオレ。)
手渡しても、しばらく口をつけないでいたが、湯気立つコップの縁にゆっくり唇・密着させた。袖からは指がそっと顔をだしてる。テレビ見ながら、ぶつ切りの会話をしたふたり。夫なし。彼女は子持ちだった。21歳で子供は2歳
ケータイから着信音。出ない。彼氏から―だそうだ
付き合っている人がいて、お互い干渉しない関係らしい。
〈―この世界で働く子って、“うつ”になる子がおおくて…薬漬けが多いねんて‥私は昼間、別の仕事してるんやけど、してない子はこれしかないから、ウチ何やってるんだろって、なるんやって。〉
あたしはしてないけどね―コーヒーのみながら、気がつけば30分ぐらい話していた。
〈風呂入った?〉
「うん。。一応、先入ったよ」
〈あ。そう、じゃあ入ってくるわ〉
神谷も立ち上がり、風呂場へと向かう。案内するまでもないけど、一応付き添った
シャワーが奏でる、一秒・イチビョウ。廊下に通ずる扉に背をむけ、耳はぴたり…止んだ音で振り向いてしまう。まだ、開かない。扉は拓かれた。
バスタオル巻いて姿を露呈した。
〈さむっ!―風呂、きれいやね。A型?〉
「Bやで。」
〈まじで。ウチ、きれいなお風呂じゃないと入られへんねん。汚い人多くてさー…〉
隅っこに立て掛けられた鏡を見つめ
〈なんか脚ふとない?ヤバい。家に全身鏡ないから、わからんかった。〉
重たい口を開いた「…そうか?」
〈うん。ぜったい、そうや〉髪をまとめ―結わえる〈寒いなあ‥ベッド入ろ〉
布団にくるまる。
苦い薫りは彼女の肉体から姿消していた。
〈さむくない?〉
始まりの暗示だと認識した「せやな。」。
スタンドライトは冷めた目で眺めているからベッドの下、スイッチを押した。天井の眩しすぎる明かりを消すと温かい眼差しに切り替わり、幻想的な空間―醸し出す。
〈脱いで‥〉
言われたまま、身ぐるみはがし、仰向けになる…
ぶつぶつ唇動かしていると、
いきなり吸い付かれた
黙った神谷。
身体を授けるように見上げる
笑っていた女。
〈‥責める方がいい?責められる方がいい?〉