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神谷サンちの猫―Kamiyasanchi・no・Neco―  作者: 風魔 和之
第Ⅳ匹 猫に九生あり
50/50

##

差し込む西日。流れ行く町並み。まぶしそうに眺めている年増の女。険しい顔に話しかける運転席の男。年相応のシワ寄せながら、走らせる。道標なんども過りながら、震動が座席に伝う。淡く黄色い地上を涼しい顔で車は突き抜ける。男は首を傾げた。怪訝な顔は変わらぬまま、また宛もない話つづく、たとえば

「今年の桜、通勤中の電車から見るけど、それだけで終わりそう」とか「花見、家族で行こうか」やら。出張すると、足がいくら出る、など。どうでもよさそうな女性の表情がサイドミラーに映りこんでいた。

途中TSUTAYAに寄る。旧作DVDをかりるため。嫁からポイントが貯まっているという理由で夫の方は店内で適当に順を追っていた。「これしってる?」


え。さあ‥


交差点の南北向道路が一時停車で、その手前から少し減速しながら、左右確認した。走行していたところ、信号のない交差点内で対向車とすれ違った後に聴こえてきたラジオのニュース。大相撲・横綱白鵬の九度目の全勝優勝を伝える。どこにでもいそうな中年夫婦は早々と帰宅した


うららかな日差しを受けていた、まだ築年数の浅い一戸建て。よく手入れされた花で飾られ、気分よさそうに車を迎え入れる。停車したら急ぎ足で家の中に入る嫁、トランクから大量の荷物を取り出していく夫、二人はこなれていた。

男はようやく手荷物片付け、出かける間際に干した洗濯物を取り入れるウッドデッキ。肩もうまく回せやしない、軋轢音だけがやたら鳴る首の凝り。一息しようとリビングから離れたら、中1の息子が和室で、くつろいでいる。借りたばかりのDVD観て、お菓子食べてる、そんな光景が垣間見えた。一言二言ぐらい笑いながら話しかけて、返る言葉もなく、隣のあいたスペースにゆっくり腰を落ち着かせる。しばらく一緒に映像を眺めていたら、玄関が騒々しい。中学三年の娘が塾から帰ってきた。まだ姿みせない。嫁が先に和室へ顔をだす。なかなかお風呂に入ろうとしない息子へ小言を少々。テレビの中の女優に気付き、お菓子くわえながら茶すする旦那をみた。

「あかりに似てない? 」「うん?ああ」

「お姉ちゃんに?‥うそー」

嫁が娘をよぶ。

愛犬を可愛がり、和室に抱えながらやってくる。おす犬で、名はレオ。「ただいま~…って、なに観てるの?」

「クロニクル。知ってる?」中年男は座りながら、無心で観ている。

「しらない。しってるの?」

「はじめて」嫁が座ると隣で娘も同じように腰を落とす。「この女優に似てない?」横目でいわれ、娘は首をかしげながら撫でる。犬も吠えずに見ていた。「…誰?」怪訝な顔でまじまじとみて、ほころぶ。「えーにてないって。この女優だれ?」中年男の食べる手が止まった。

「芹沢かよ」嫁はお茶がないことに気付き、冷たいの―そう言付けると、しぶしぶ去るのは男。「だれ?」息子はあぐらをかきながら、スマホいじってる。

「もう死んじゃってるけど」頭上に降り注いだ言葉に見上げる娘。

「うそ!どうして?」コップ片手に帰還する父親と目が合う


『クロニクル』…梅雨明けの熱い夏が舞台だ。

犬はとても(なつ)いていたが娘のあかりの腕から、さりげなく離れ、注目の薄れた二階にあがっていく。

誰もいない部屋。外の人の流れが見れる窓辺がある。積み上げられた物を足場にそこから、じっと何か見ている。時々あくびしていた。

並木通に面した南側。

昨日はくもりがちだった空の色。今日はこれから夕焼けに照らされる。明日はきっと、もっと晴れて、穏やかな兆しを見せるはず。

はんなり―風が亨ったら



人知れず、桜、舞う。

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