#00
生暖かい天井からの風。
遡ることができない時流の中、
別離する唇の触感。
だ液の味だった。
妖しく煌めいた狂気
それは困惑した眉の下、女のあどけない瞳を通して滲み出る。
「え、ちょ…」拒絶する言葉にひと呼吸もなく、疑問を捲し立てる舌先。なにも答えてはくれなかった。だって信じてくれないとおもう。しゃべろうとするたび、この切ない思いの丈、ただ只、その瞳の奥を見つめるだけ。隣り合わせのすきま、僅かにあいた、時の中。
“逢いたくて。。ずっと。。あいたかった。”
いちど喪失した記憶は、曖昧、だけど、なぜかずっと、この人の近くにいたような気分。いくつかの思い出を結ぶ記憶。
力が、ほどける。唇に馴染ませる感情、フルーツのよう、甘酸っぱい香りとまろやかな口当たり。その舌から優しく離れる。やっぱり生きているんだ。
水滴が右の頬に降りおちる。窓は残る雨のカケラで独特のひび割れ模様。あなたは変わった。頬肉は痩せ、薄くなった頭髪、見知らぬおでこ付近の十円禿げ、そして、深いシワの数多、思い出と、異なるけど、やっぱり暖かい。
あたし、今まで、なにしてたんだろ。。
体を並べても、いつまでたっても、ぎこちない。すっかり年のせいか老いてしまったんだね。…私を、忘れた?貴方見ていたら、思わず、立ち上がっていた。腕は伸びて、大きな肩へと届く。白い波打ち際に飛び込んでいった。きつく思い抱き締めたまま。
遠ざかる理性のふち、、追憶の彼方、聴こえる何か。また、きこえる。霞む声―お父さん?‥お父さんだ。誰かいる、それを確認しに二階へとゆっくり上がる音、膨張する。もう、そろそろかな。頬の温もりを重ね合わせた。柔らかな気持ち固まる。私はすべてを悟る。じわじわと蒸発しはじめる指先から、上昇する光を見ていた。まるで華。
見下ろしていた。貴方しかいない。この狭い視界。二人だけ。諦めかけた瞬間から込み上げる感情とか、ふっと、溢れ出す
ずっと、ずっと、たぶん、ずっと‐貴方のこと、あなたが好き。
荒くなる息づかい
「―。」
旋律を奏で、落ちるのは涙、ごめんね。じかん、もう時間なんだ。
安らかになった瞳と、相容れない唇
“今日、むかえに来たんだよ。”
いかなくちゃーいっしょに、、ね?
踏み入れようとした迫り来る足音、ちいさな轢音とともに消滅し始める体の成り立ち
腕を引っ張るー
「―龍之介、お風呂」
誰もいない部屋。目線は点になる。つけっぱなしの明かり。布団にくるみ、ベッドに横たわる体を見つけ、「あ。‥おったんか。お風呂、入っていいよ、もうそろそろお母さん帰ってくるから」扉を静かに閉めようとした‥。寝てると気づいて、年老いた瞳に部屋の明かりが映る。どこか朗らかな目尻。近より、毛布を肩まで被せ、消灯し扉をそっと、しめた。
思い出の数つやめくほど、死にたくない感情は芽生える
むしろ、雑草みたいに。
ただ、命尽きたその人の顔は綺麗だった。
私に下された使命は、その日を最期に彼を連れてくること。だけど、ごめん。彼はきっと怒ってるかもしれないけど、許して。小説は未完のまま、一人の男の死によって綴じられるから
空からの景色に、今はなき思い出の香り
雪がしんしんと降り積もる。数年ぶりだと思う。あの町を包み隠すように今宵、いくつもの新しい余白が生まれていた。




