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神谷サンちの猫―Kamiyasanchi・no・Neco―  作者: 風魔 和之
第Ⅳ匹 猫に九生あり
49/50

#00

生暖かい天井からの風。

遡ることができない時流の中、

別離する唇の触感。

だ液の味だった。

妖しく煌めいた狂気

それは困惑した眉の下、女のあどけない瞳を通して(にじ)み出る。

「え、ちょ…」拒絶する言葉にひと呼吸もなく、疑問を捲し立てる舌先。なにも答えてはくれなかった。だって信じてくれないとおもう。しゃべろうとするたび、この切ない思いの丈、ただ只、その瞳の奥を見つめるだけ。隣り合わせのすきま、僅かにあいた、時の中。


“逢いたくて。。ずっと。。あいたかった。”


いちど喪失した記憶は、曖昧、だけど、なぜかずっと、この人の近くにいたような気分。いくつかの思い出を結ぶ記憶。

力が、ほどける。唇に馴染ませる感情、フルーツのよう、甘酸っぱい香りとまろやかな口当たり。その舌から優しく離れる。やっぱり生きているんだ。

水滴が右の頬に降りおちる。窓は残る雨のカケラで独特のひび割れ模様。あなたは変わった。頬肉は痩せ、薄くなった頭髪、見知らぬおでこ付近の十円禿げ、そして、深いシワの数多、思い出と、異なるけど、やっぱりあったかい。


あたし、今まで、なにしてたんだろ。。


体を並べても、いつまでたっても、ぎこちない。すっかり年のせいか老いてしまったんだね。…私を、忘れた?貴方見ていたら、思わず、立ち上がっていた。腕は伸びて、大きな肩へと届く。白い波打ち際に飛び込んでいった。きつく思い抱き締めたまま。


遠ざかる理性のふち、、追憶の彼方、聴こえる何か。また、きこえる。霞む声―お父さん?‥お父さんだ。誰かいる、それを確認しに二階へとゆっくり上がる音、膨張する。もう、そろそろかな。頬の温もりを重ね合わせた。柔らかな気持ち固まる。私はすべてを悟る。じわじわと蒸発しはじめる指先から、上昇する光を見ていた。まるで華。

見下ろしていた。貴方しかいない。この狭い視界。二人だけ。諦めかけた瞬間から込み上げる感情とか、ふっと、溢れ出す


ずっと、ずっと、たぶん、ずっと‐貴方のこと、あなたが好き。


荒くなる息づかい


「―。」


旋律を奏で、落ちるのは涙、ごめんね。じかん、もう時間なんだ。

安らかになった瞳と、相容れない唇


“今日、むかえに来たんだよ。”


いかなくちゃーいっしょに、、ね?


踏み入れようとした迫り来る足音、ちいさな(れき)音とともに消滅し始める体の成り立ち

腕を引っ張るー


「―龍之介、お風呂」

誰もいない部屋。目線は点になる。つけっぱなしの明かり。布団にくるみ、ベッドに横たわる体を見つけ、「あ。‥おったんか。お風呂、入っていいよ、もうそろそろお母さん帰ってくるから」扉を静かに閉めようとした‥。寝てると気づいて、年老いた瞳に部屋の明かりが映る。どこか朗らかな目尻。近より、毛布を肩まで被せ、消灯し扉をそっと、しめた。



思い出の数つやめくほど、死にたくない感情は芽生える

むしろ、雑草みたいに。

ただ、命尽きたその人の顔は綺麗だった。

私に下された使命は、その日を最期に彼を連れてくること。だけど、ごめん。彼はきっと怒ってるかもしれないけど、許して。小説は未完のまま、一人の男の死によって綴じられるから


空からの景色に、今はなき思い出の香り

雪がしんしんと降り積もる。数年ぶりだと思う。あの町を包み隠すように今宵、いくつもの新しい余白が生まれていた。

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