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神谷サンちの猫―Kamiyasanchi・no・Neco―  作者: 風魔 和之
第Ⅳ匹 猫に九生あり
48/50

#9

目を開いた。


無音の時刻む夜にいくつもの窓から映し出す家並みの灯り。残存する光たちの先、見知らぬ世界が広がる、生乾きのアスファルト。踏みしめる。都会的な格好で細長い脚さらけ出し、少し寒そうな出で立ちが不意に立ち止まる。雨上がりの様子に、空の表情を確認してるみたい。妙な落ち着き方をしている。雲の張りつめた幕は星などを覆い隠していた。


(―…。)


現実に打ち上げられた。けれど多分これも、夢の続きなんだろう。取り込まれる冷たい空気や反応する白い肌、周りに適応する住宅街の景色さえ。凡てが宙に浮いてるような気分。不思議な前足やら地に根を下ろす真逆の脚やら。ここは現実を装った「夢」。そう、下手に確かめても一緒。あるゆる体の成り立ちとか、答は、変わらない。満更(まんざら)でもなさそうに前を向く。不安を滲ませながら、割りきった目で。また前を見た。立ちはだかるのは何でもない一軒家。拡散された新しい風景のなか、年の移ろいをもろに身体で受け止め、古くなった身構えはどこか懐かしくて、目尻の先から込み上げる何かが、なんとなく零れてしまっていた。

今、自分がどうなっているのかなんて、興味ない。だって夢の延長だから、思い切って前足を伸ばす。たまに主人がやるように。ボタンは抵抗なく引っ込み、呼鈴が鳴る。扉から少し離れたとこで前足を握りしめ、ふと爪が短い自分に気づく。声が聞こえたが、もじもじ見ていると扉から現れた主人の視線。

呆気にとられている姿とボクの距離は近いようで遠かった。



なにも言わない。抱きしめてもくれない。ただ家に上がろうとするボクを問いただし、無言で白々しい態度とったもんだから、「ちょっとまって、」怪訝な眉の下、赤に染まる目と、ちいさくあいた唇。

いろいろ何か言われたけど、結局、玄関に通された。誘導される短い廊下、よそ見した主人の横っかわで、ふと右を向けば、ふきとってたはずのいつかの鼻血が生々しい血痕として和室の机の角に残っていた。


―こっちに来て、事情聞くから!


和室に入ろうとする意識は呼び止められる。目線の高さがおんなじ。神になったのか、空を飛んでいるのか。振り返っても、ホントふしぎな夢だ。


目をぱちくり、視界に四隅から斑点が沸いて出て、明かりとなりて、二階へ上がる後ろ姿形成している、二度見した

“似てる―”

雰囲気は、ぜんぜん、似てないけど、あの渚の光景と。まるで違うのに。なぜ、重なるんだろ


…だれ?なんで、立ってんの?ボク


訪れる、ほのぐらい廊下。扉へと続いてる。見慣れたはずなのに、突如怖くなる。黒い満月の輪郭が際立つ目は誰を見ているのだろう。物寂しそうで憂いにみちた影と、唇からこぼれる白い光、若い頃のボクに似ている。いまにも哭きそうな顔で我慢してる唇


とりあえず、部屋の中へ通そうとする導きを、まだ信じることができない。明かりを嫌った。帰ろうとするボクの意識引き留め、主人は見つからないように辺りを警戒しそっと閉めた扉。

暖かな部屋の照明。ちっちゃい銀紙に包まれたものをくれた。腰を落としたベットで事情は深く聞いてこなった。主人は包みをはがし、口に放り込んだ。ボクも真似した。

お母さんは買いもんから帰ってこず、お父さん、入浴にまだ時間が掛かってるらしい

「…名前は?なんていうの」

「‥お家は?」

身動きとれなくなる。

‥。

「えっ…ん~、何かってくれんと…こっちもわからんで?」

‥下を見た、不器用で愛想のない表情しているんだと思う。口のなかが、ほのかに甘い。

「コーヒー作ってくるわ、寒いやろうし。‥飲んだら、帰るんやで、途中まで送るから」

待ってて―振り返る刹那、猫の鳴き声が細々とした

「‥仄?…あいつ。なにしてんねん、もう、ほんま。あ。家で飼ってる猫でさー…帰ってきたんかな」

静かすぎる合間のあと、じっくり瞳をみられ「‥いや、ごめん。なんでもない」


…。

おいてけぼりの部屋の空しさ。巡る視線は旋回する。机に同じ境遇の手鏡。立ち上がった。手に取ると目が覚めるような女。すこし影のある美人が写り込んでいた。

さりげなく頬に手をやり

端麗な瞳。ガラスの中で、稲妻(しょうげき)が走った。


嘘でしょ。。

“…”

扉が開かれた。眠そうな顔の主人。手鏡を咄嗟に戻していた。

「どうしたん?」

高鳴る雷雨に、いくつもの思い―かきけされていた。呼吸するのもつらい、胸の奥を侵食する熱さがきりきり締め付ける。帰ってくるのが早い主人はその理由を呟く。切れていたらしい、コーヒーが。ふたたび座り込むボクを、立ちながら背を向け、なにやら机に面と向かう、ベットからは丸まった背中が見えてた


にゃー


もういちど振り返るとき、主人は

“―”

立ち尽くしてしまっていた。目の前でおきたこと。信じられず、混じりけある笑みを滲ませ、本人に訊くしかなかった

「ウソ。まじ…」

ベットで並んで座った

「猫やと思った!」凄いな―僕は自分に不意をつかれる。柔らかな衝撃。

「―、」


口づけを交わしていた。


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