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神谷サンちの猫―Kamiyasanchi・no・Neco―  作者: 風魔 和之
第Ⅳ匹 猫に九生あり
43/50

#4

それは雪国の一瞬とらえたまま、息をひそめ、カレンダーに掲載されている。冷蔵庫の側面に貼り付けられてたので、ボクは立ち寄った洗面所の帰りに見上げてしまっていた。届かない高い場所にあるけど、ちょっと無茶すれば、行きつけそうだ。目を細め、しばらく欠伸あくびした。


二階への段差をひとつひとつ眼でかけ上るのは好奇心。心なしか静かな闇の占拠する森、繋がるのは獣道。主人の孤独への戦いが表現され、極めて小さな時のにさえ掻き消されようとしている。無精髭に、髪のうねりは鳥の巣。別世界から降臨された男が後頭部をかきながら一階にて流離(さすら)うころ、仄暗い猫はというと、人のいる暖かい場所へ向かっていた。スリッパで鈍行する足、耳許で交差する一時ひととき


リビングのテーブルで読みものをしてるお父さんの眼鏡、近づくにつれ大きく映る。長椅子から降り、お父さんの足を右手に木材の壁に沿って歩むと陰の中、曲がり角で、分厚く着飾った白い足が現れる。パソコン眺めるお母さんだった。明かりの(もと)に出、気まぐれで振り返ると皺が寄り添いながら無言の会話くりかえす、ふたりはいる。頬杖ついて打ち込む指先の音は無機質で、午後の端くれ、主人は見向きもせず、わが道へと二階の薄明かりに取り込まれていく。パソコン片手にふたたび降臨したときにはもう、リビングすら背を向け、頭掻き、和室へ歩む覇気のない後ろ姿、まるで崖みたい。


居直る仄暗い猫。


独りと、暖房機付近を陣取る一匹のやりとり。

主人はいつも耳へ取り急ぎ注入するように細い管通わせる。その手に小型の機械。管をたどれば、機械ソイツへ視線はぶつかる。パソコンの前、テーブルの端で書きむしる横顔の、真ん中あたり。ただ無気力で眺めていた


赤い線がすっ―と流れた。


ポツ・ポツリ…机に落ちたのが見える―手で押し込め、

仰ぎ見る、急に和室を飛び出した。


その小説家は焦っていた


本が売れない時代に、易々と復帰だなんて、ゆめのまた夢。平積みされた無類の書物や紙切れ、残して部屋を出る人、リビングの両親と二言ちょっと話しただけで、しばらく間が空いて、注がれたグラス片手。戻ってきてはへたれこんだ。今まであまり気にならなかったけど、おでこの生え際辺り、十円ぐらいのハゲがすこし、拡がっている


カサカサ、キラキラ、ユラユラ‥和室のテレビが立ち尽くす横で小さなクリスマスツリー、ちょっかいして張ったおす一段高い場所。

軽く、いなされた

うんざりした目をしてる。あしらわれたボクを眼下に、少しも余裕のない視線送るので、へそ曲げた

不意に見せた強気な態度。ちょっと気になるけど、どうしようもない。ボクはそばで見守ることや寂しさを紛らわす存在でしかないのだ。


歩みよりもせず高みの見物の猫


先日、相手の女と出会ってみて、よくわかった。無論、最初からやんわり気づいていた、それを、切り立つ格差がもういちど教えてくれたんだ。一所懸命現実から逃避しても、前にあるのは現実でしかない。だからボクは夢をみれるのか。信じられるのか。いま、こんなボクが、ボクは好きなのかもしれない。


下ばかり向いてたら、余計つまづく

さいたるものを

考えあぐねている

パソコンに向ける主人の真剣な眼差しを想い、気持ち傾けていた。


何かが決まらないみたい。大画面テレビを背景にして高台の狭いスペースから飛び降りる仄、机の上にはメモ用紙とカバーのついた一冊の本、新入りの風体だ。短い首を伸ばす猫。


真っ白な世界に交錯するのは、赤い線の痕。がんじからめの線に狭間(はざま)れ、辛うじて見えるのは縛られた黒い文字

“LA"…S?…V?“CAT”

じっと見つめる


自然と話しかけてきた


片手間に、玉のような額の汗

通じることなき問いかけ。その人の知識に引っ掛かるから出てくる言葉がある。ペンを置いた。


テレビを和室で共に見ている。仰ぎ見ると、なんのへんてつもない天井の空に清々しい雰囲気、黒い点々の濃くなった顎が見える。心なしか座りごごちの悪くなった太もも。


プロ野球も終わりアメフト一色の冬の甲子園。夜、余所行きがおで車は通りすぎ、彼女の家の近く、くもりがちの空の下にて別れを切り出す車内。ふと、世界は容赦なく切り替わり、テレビから聞こえる女の声。週末は悪天候になり、所々大雨に見舞われるとのこと。


清潔感ある女は薄く笑みを浮かべた。画面は、また何事もなかったかのように、賑やかな番組セカイへ突入する

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