#4
其は雪国の一瞬とらえたまま、息をひそめ、カレンダーに掲載されている。冷蔵庫の側面に貼り付けられてたので、ボクは立ち寄った洗面所の帰りに見上げてしまっていた。届かない高い場所にあるけど、ちょっと無茶すれば、行きつけそうだ。目を細め、しばらく欠伸した。
二階への段差をひとつひとつ眼でかけ上るのは好奇心。心なしか静かな闇の占拠する森、繋がるのは獣道。主人の孤独への戦いが表現され、極めて小さな時の音にさえ掻き消されようとしている。無精髭に、髪のうねりは鳥の巣。別世界から降臨された男が後頭部をかきながら一階にて流離うころ、仄暗い猫はというと、人のいる暖かい場所へ向かっていた。スリッパで鈍行する足、耳許で交差する一時。
リビングのテーブルで読みものをしてるお父さんの眼鏡、近づくにつれ大きく映る。長椅子から降り、お父さんの足を右手に木材の壁に沿って歩むと陰の中、曲がり角で、分厚く着飾った白い足が現れる。パソコン眺めるお母さんだった。明かりの下に出、気まぐれで振り返ると皺が寄り添いながら無言の会話くりかえす、ふたりはいる。頬杖ついて打ち込む指先の音は無機質で、午後の端くれ、主人は見向きもせず、わが道へと二階の薄明かりに取り込まれていく。パソコン片手にふたたび降臨したときにはもう、リビングすら背を向け、頭掻き、和室へ歩む覇気のない後ろ姿、まるで崖みたい。
居直る仄暗い猫。
独りと、暖房機付近を陣取る一匹のやりとり。
主人はいつも耳へ取り急ぎ注入するように細い管通わせる。その手に小型の機械。管をたどれば、機械へ視線はぶつかる。パソコンの前、テーブルの端で書きむしる横顔の、真ん中あたり。ただ無気力で眺めていた
赤い線がすっ―と流れた。
ポツ・ポツリ…机に落ちたのが見える―手で押し込め、
仰ぎ見る、急に和室を飛び出した。
その小説家は焦っていた
本が売れない時代に、易々と復帰だなんて、ゆめのまた夢。平積みされた無類の書物や紙切れ、残して部屋を出る人、リビングの両親と二言ちょっと話しただけで、暫く間が空いて、注がれたグラス片手。戻ってきてはへたれこんだ。今まであまり気にならなかったけど、おでこの生え際辺り、十円ぐらいのハゲがすこし、拡がっている
カサカサ、キラキラ、ユラユラ‥和室のテレビが立ち尽くす横で小さなクリスマスツリー、ちょっかいして張ったおす一段高い場所。
軽く、いなされた
うんざりした目をしてる。あしらわれたボクを眼下に、少しも余裕のない視線送るので、へそ曲げた
不意に見せた強気な態度。ちょっと気になるけど、どうしようもない。ボクは傍で見守ることや寂しさを紛らわす存在でしかないのだ。
歩みよりもせず高みの見物の猫
先日、相手の女と出会ってみて、よくわかった。無論、最初からやんわり気づいていた、それを、切り立つ格差がもういちど教えてくれたんだ。一所懸命現実から逃避しても、前にあるのは現実でしかない。だからボクは夢をみれるのか。信じられるのか。いま、こんなボクが、ボクは好きなのかもしれない。
下ばかり向いてたら、余計つまづく
さいたるものを
考えあぐねている
パソコンに向ける主人の真剣な眼差しを想い、気持ち傾けていた。
何かが決まらないみたい。大画面テレビを背景にして高台の狭いスペースから飛び降りる仄、机の上にはメモ用紙とカバーのついた一冊の本、新入りの風体だ。短い首を伸ばす猫。
真っ白な世界に交錯するのは、赤い線の痕。がんじからめの線に狭間れ、辛うじて見えるのは縛られた黒い文字
“LA"…S?…V?“CAT”
じっと見つめる
自然と話しかけてきた
片手間に、玉のような額の汗
通じることなき問いかけ。その人の知識に引っ掛かるから出てくる言葉がある。ペンを置いた。
テレビを和室で共に見ている。仰ぎ見ると、なんのへんてつもない天井の空に清々しい雰囲気、黒い点々の濃くなった顎が見える。心なしか座りごごちの悪くなった太もも。
プロ野球も終わりアメフト一色の冬の甲子園。夜、余所行きがおで車は通りすぎ、彼女の家の近く、くもりがちの空の下にて別れを切り出す車内。ふと、世界は容赦なく切り替わり、テレビから聞こえる女の声。週末は悪天候になり、所々大雨に見舞われるとのこと。
清潔感ある女は薄く笑みを浮かべた。画面は、また何事もなかったかのように、賑やかな番組へ突入する




