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神谷サンちの猫―Kamiyasanchi・no・Neco―  作者: 風魔 和之
第Ⅳ匹 猫に九生あり
42/50

#3

振り返る眼と、目が逢う。


(怖じ気づかない小さな姿は空を背景バックに浮かんでいる興味津々な顔と対峙した。)

昼の足早を止めた小路。勤務先近くのだだっぴろい公園への入り口。暖かそうなコートを着用し「ウソ…。まじか」そのひとの、とりとめもない言葉から一幕ひとまくはきっておとされた。

おそらく昼飯にいく前だとふんで、ボクは神と謳われる人間を試してみた。疑い深い目は、かえってむずむず()らされた。けれどボクはひるまなかった。女の容姿から漂う甘美、不思議そうに瞼をはためかせる仕草。茶いろい髪の強く凛としたまとまりの下で、色褪せる太い眉。蠱惑な瞳は唖然として、控えめにある唇の豊かさ。あまりにも無邪気に飛び交う空が、その後ろがわで、ビルのガラスの群れへと映り込んでいる。


(先に行動を起こしたのは女だった。しゃがみこんでは、のぞきこむなどした。ボクは動かないで、虚しい勢いを張った。)様子見で怪訝な瞳の広がりにいよいよ吸い込まれそうだった。「―」目がボクの口からぶら下がる物体に相当、釘付けなのは知っていた


晴れる空がある一方、寒い気温。困惑している表情もいいが、どうして心苦しくなるんだ、口から硬いモノが、こぼれ落ちていた。背を向けたら、この女で間違いないだろうと自分に語りかけ、自問自答が曖昧だけど終った。大体、こんなこと無意味だったんだ、初めから…。


ボクはなぜか立ち止まる。目の前のすぐ、近くにあった理由。並走して回り込んできたその片手にスマホ、目を細め、おなじ目線で、なにか口笛ふいたりして…まるで“こっちへこいっ!”そんな身ぶりでおびき寄せようとしている。甘いな。冷静を装い、しばらく面と向かってから興味なさそうに別の方角から歩み始めた。

溢れるみどりの中央広場へ向かう―人目のない道を瞳のスクリーンには女の残像がちらついてしまう。おそるおそる振り返ると後ろの方でしゃがみこんだまま。こっち見てる。相変わらず。時折・手首を気にしながら。肩を縮こませ、コートに包まれている。ボクは何かを叫んでいた。微妙な距離保ちながら、二度も相手に先を越されていた。ありがとうって。多分、発音した唇の大げさな動き。屈託なく笑って、大の大人が子供のような視線を向け、無垢で白い粒零れていた。


首が苦しくなった。つけてくれた主人のこと、思い返す。胸に淡々とよぎり、わけもなく唯一の心のよりどころだって、信じていた。鬱蒼と生えたささくれの下で芽生えた何か。人間への不信感と誤魔化す気持ちに埋もれてしまう。こうして、今をうまく鳴けない。悟ってしまった。

それでも、同じ目線で落としものを受けとってくれた、この人に、ありふれた人間の独りだとしても、どこか愛着があった。主人が好きになるのも仕方ない。人間の男ならなおのこと、あの女の退屈そうな目、だけど余裕のある唇、ほどよい脚の膨らみ。。届けにきた猫はとっさに駆け出して、茂みの影へ―(ただ)々、無心だった。


薄い闇の複雑な切れ間から周りの人波は穏やかになって、日射を照り返す緑。相反して、外周に連なる街路樹は、はだか同然で寒そう。女のすらりと伸びた脚が冷たく立ち去った。

鼓動が時を早めたが、落ち着きに向かう心は流されるまま。

揺らめいてる。


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