表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神谷サンちの猫―Kamiyasanchi・no・Neco―  作者: 風魔 和之
第Ⅳ匹 猫に九生あり
40/50

#1

第4匹 猫に九生あり

漏れでる息は白い。手作業するウッドデッキのお父さん、そのちょっとした素顔を割りと冷たいリビングから見上げていた。


淀みなく透き通る不思議な詩。心に降り積もる―。退屈しのぎの二階から望む道並み。途方に迷ってる淡雪。一階では各地の吹き荒れる映像が流れているままだ。白昼、穏やかな斜陽が同居する光と影。日はだんだん落ち、呆気なく暮れ惑う。奇妙な融合をとげた空の色彩がまるで最期の光を受け放つ


夜の帳に仕切られた家。


誰もいない和室の壁、その向こうから聴こえくるのはなぜか懐かしいメロディ、透き通る


“・・石焼~き芋~*おイモだよ”


潜り込んだカーテン、軽トラの聞き慣れた風物詩も何時しか片隅まで追いやられてる。時代の風、哀愁ただよう唄

今宵はまったくもって静かだった。やがて和室だけが煌々と照りつけ、影となる廊下。かいまみえる団欒と話し声。ひんやり冷たいフローリング。リビングで仄の歩みは止まり、ウッドデッキに出られるガラス戸、立ち尽くす。今日もうずくまっていた。


鼓膜がピンと、張る

聴こえた、そんな気がする。じっとガラス越しを見つめた。けど、変わらない風景。和室の明かりのせいだろうか。微かなものさえ、ウッドデッキは今、確認できる状態なのに。しばらく並べた前足。顔を埋めると、期待した気持ち沈んでいくみたいで冷めた床が余計、身に染みる


仄の背骨は前に伸びる。目と鼻が敏感に感知する。来た。


遮蔽板に映る物陰

何か(くわ)えている。ようやく全身を露にした。“よう”しっぽの動きで読みとく小さな挨拶、ガラスを通して映り込む無声音。ボクは目の前で佇む障害いじって、顔を縁に密着させながら横へ少しずつ―溢れる外気が侵入し、刺激するカラダ。調査結果を報告しに来た先輩の顔つき、滑らかに映るしっぽが遊んで見える。くわえたもの、静かに口から離す。


それでもコトンっと反響したー


“…”

ようやく再会できたことが無我夢中にさせ、透明の壁の開かれようとするまで、つのる思い、はち切れそうだった。吐息程度で震えるこまやかな糸、だけど今は向かい合う猫を強く結ばせる。隙間風とともに、待ちわびたチュンさんの息吹きが流れ着く。遂に二匹の面会を赦してくれた、ガラス張りの門番。願いが叶った。


何故どこか申し訳なさそうに近寄る口許


疼くこころと、目の前の茶色い猫。報告される尾行した過程を少しくらい聞き逃してしまえば、取り戻した意識が、残り全てに神経傾けていた


探偵猫・チュンさんの調査報告はざっくりと次の通りである。


被調査人について―

【氏名】かみや・りゅうのすけ

調査事項について―

被調査人の行動調査である。交際相手と目される写真の女との接触状況を確認、又、両名が接触した場合には別れた後、女性を追跡して現住所等を明らかにする

女の調査結果について―

【氏名】不詳

【年齢】不詳(肌をみるとまだ若いと思われる)

【身長】軽自動車よりちょっと低いかも。

【体系】細身。

【髪型】肩にかかる程度の当たり障りのないブラウンカラー

【服装】ベージュ色コート、黒系の膝丈スカートに踵の高い靴

【所持品】赤色のカバン

【現住所】不明。

【勤務先】株式会社セイロ

―セイロ?!あまりの近さに、眼は弧を描いた。

この(ウチ)の最寄駅からすぐ近く。確か、道路をはさんで駅と真向いにある小料理屋の…

二軒隣で見たことがある。あの微妙に高い建物。

突っ込みどころ満載ではあるが、尻すぼみに結びの言葉をつぶやく先輩。矢継ぎ早の報告を済ませたら、ひとまず辺りを警戒し小刻みに呼吸してる。残された時間と戦い、狭間で浮き上がる心、ボクらはなんども沈ませている


…ていうか、よく調べましたね。


人間界に精通する先輩にとって、こういうなりわいは、わりとハマってるのかもしれない


暇だったからしょーがないやろ。感謝しろ。…それよりロン、


(女は―昼下がりにいつもセイロ前の公園を行き交いしている。時間帯は決まって広場の時計の短針と長針が重なってから、長針が5にギリギリ近づく頃。そこを狙え。‥おそらく昼飯にいって、大体、長針が6と7に挟まれ始めたら、再び広場に現れ、縦断するんだ、独りでいるときが多いけど(たま)に複数人と肩を並べて歩いている)


するとここで、真夜中の道すがら、女の落としたものを拾得したといって、半ば差し出すように前足で滑らす

「これ。受けとれ」

革に覆われた部分はチョッカイかけると単純に開かれた…〈あ!こいつー〉よく主人を独占する角ばった野郎だ。驚きを隠せれないまま、外の物陰にいったん置いてもらうよう、お願いした。頷く先輩の顔が妙に淀んだ。

ボクの足元で、横たわるものに気づいたらしい。開封済みではあるが、拾得物の隠蔽後、帰り際の先輩に約束を果たす。口移しの、高級ペットフード。


報酬を加え、去りゆく後ろ姿は風になびかない。まるで王者のような出で立ち。気にしないようにしてるけど気が散る。視線がさりげなくチュンさんを横切っていった


標的ターゲットはあまりにも至近距離だった。長旅になるのを予見していただけ、その分ため息がこぼれた。できれば遠くに潜んでいて、この気になる思いをむしろ絶望で殺して欲しかった

完全に別れたあと、脳裏ではこべりついた雑誌の女が(にじ)む。見た気がする。それさえ思い出せずに何か引っかかって、歯がゆい。和室の洩れた光にふと視線は移る。また元に戻せば、いつまでも少し影のある美人の被写体(すがた)を繰り返し思い巡らせていた


この開かれた硝子戸から、いつ何時なんどきも外へ出られるのに、この今だって、そうはしない。チュンさんとともに今の生き方から抜け出せるはず。それでもボクはこの場を離れずにいた。


一生涯かもしんない。ちいさな疑問をこれからもずっと持ち続けるのかもしれない。だけど、心にぽっかり空いた風穴へと振り返り、ボクは歩いていった


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ