表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神谷サンちの猫―Kamiyasanchi・no・Neco―  作者: 風魔 和之
第Ⅲ匹 猫に小判
36/50

#11

お腹が変だ。


冷たい何かを感じる‥気持ち悪い。うまく飲み込められず、消化不良起こしてる。この得たいの知れない蠢きに、丸まって寝て我慢するしかない。


膝から飛び出し、しっぽを引き連れた仄は、大草原の絨毯へと迷い込んだ。頭のなか、時々女の影。真っ白な空間にちらつくその影を追っても、おいつけない。主人の肖像画に見下ろされながら、果てのない葛藤を繰り返す架空の世界セカイ


なんだろう…この感情

蠢く、この腹に棲み着いた感触


知らないボクなりに考えて表現したけど、我慢出来ない。寝たふりしながら、うずうず。思い悩むけど、視界は緑一色、汚染される。それだけがずっ・と腑に落ちないんだ。


主人のことは、意識して無視してる。自意識過剰だと思う。

好きなのか嫌いなのか、、最近わからない。好きだと言い聞かせて、離れたくないけど、心はいつも結果のない生き方に焦っている。

笑ってる女の顔―きりたつ机を見上げれば、人間の領域と化した壁が広がる。張り巡らせた「白い蔦」を背景に絡まった一枚のスナップ。主人と共にぼんやり映っている。比較すると、どこか年齢に違いはありそうだけど、この蠢き、なんだろう。もっと追及したい欲がある。未解決の正体。探れば、なにかわかるかもしれない。そしてこの蠢きはボクをそうさせている


………



主人には…悪いけど。。


繰り返される同じこと。机の袖によじ登ろうとして、両脇を抱えられた。主人の特等席、前足下ろして、太もも・ぎゅっと、つかんだ。なんとか確保したけど、ややあってすこしの飽きが生じた。そこを足場に、また絨毯が広がる世界へふんわり降り立つ―ほのぼのとした仄暗い猫。


自分の身分や立場なんて、わかってる。でも、いいんだ。とりとめない不都合にボクらはいつも闘っている。それが漫然としていても、前に進んできた。こうして今も、主人に仕えている。運命を拾われたから。

隅にべったり張り付いた座布団、放置されつづけた優しさのそばで沈む体。憂鬱にかられる


ずっと、あの「りゅうのすけ」という人間を信用したいから


主人の後ろ姿が長く伸びて見える景色―仄がいったん瞼閉じることによって、意識は深い闇へと駆け出していった

仄は想像イメージした。

その前に、主人ら鋭い人間の監視から逃れる必要がある


定刻になるとボクはいつも収監される。だいたい、主人が二階での執筆を終える頃だ。西日の弱まる頃、、大きな五本指がやってきて、ぶちこまれる。あの檻の容姿。上手く出る方法は?…探る。けれど四方八方銀色に輝くてっぺんは後ろ足で精一杯ふんばって直立しても届かない。



目が覚めた仄は主人の下を離れ、用意された住み処にたどり着いていた。ボクのために趣向を凝らした環境を見渡すけど、中央でそびえ立つのは真新しい拘置所。玉虫色の残酷だ。


周辺に雑然とのさばる小物のあれやこれ。

ゲージの鉄線の間、空気の通り道とにらめっこする仄。徐々に顔近づけて、遠ざけるを繰り返す。


……。


横幅を見つめ、ぺろぺろ舐めてみる。無味無臭。前足ではたくと、鉄線の感触が伝わってくる

仄はその隙間に何かを見いだしていた。



明くる朝。誰もいない昨日の主人の部屋。薄明かりの壁にあるカレンダー。予定した一週間後の未来。じっくり準備期間を設けた。睡眠時間を削り、研ぎ澄ますように今日は神経がぴんぴん張る


掛け時計の針の示す文字から大体の平均的な行動パターンを割り出すのに結局、一週間以上は費えるだろう。不審がられないよう、なるべく陰日向に張り込む必要がある。

推測してみても、父・母・主人の習慣をよみとけば、やはり、夜しかないか。監視の目は弱まるけど、真夜中、ちょいちょい目の覚める彼らの不意討ちを視てまなんできている。つまり人間二人やっと入れる空間へとふらふら向かう彼らの行動が時たまあるので寝てしばらくは迂闊に着手できない。午前一時から、リミットは彼らのうち、一番朝早起きなお母さんの活動が始まる午前5時までと仮定した。逃走口はもちろん、一階リビングのウッドデッキに出られるガラス戸。ここはいつも、無施錠になる。ウッドデッキの仕様が外部からの侵入や人目を防げるよう遮蔽してあることにある。猫一匹、通り抜けられる隙間が遮蔽板の下にある程度だ

名探偵が推理を始めるかのように仄はくるくる周回した


とりあえず、この牢屋については期間中、練習を繰り返すしかないだろう―猫は住み処を去った。


ひた走る廊下、つきあたり左の段差ひとつひとつに対して悪戦苦闘しながら一階のフローリングへはじめの一歩を刻む。右手にぐうたら寝てばっかりのお父さんのいる畳の和室。左手に煎餅をかじるリビングのお母さんから

また届く音が通りすぎてゆく。振り返ると、ここは玄関前の通りだった。人気のない小路に行き着いた


あの人間(オンナ)を調べたい。


万が一、プランを遂行できなくて、最悪の結果になったとしたら…

引き返すと、お母さんのいる部屋の方角から、ある人間の聞き覚えのない声が降り注ぐ。


“執行猶予中に女性のスカートを盗撮したとして…”

“再犯には実刑判決が宣告されるケースが多く、再び執行猶予付きの判決が出ることは…”


お母さんはうつらうつら船を漕ぎ、観客のない付けっぱなしのテレビ…。


主人が悪い。

散歩も最近、減ってきているし、他の女にうつつを抜かしている。計画が遂行できなくても


ずっとずっと、一緒になれるなら

構ってくれるなら


それでいい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ