#7
声色に敏感な仄は視線を戻す。悟られないよう毅然と答えてみせた。
〈ああ…彼処の公園。白猫いたでしょ?〉
そして尻尾の頭がたちまち、垂れ落ちる。〈‥なんか言われたみたいね。あたしも言われたよ〉
いつもの癖で、いとも容易く見破られてしまう
犬はぺろりと舌を出した
〈‥私は、この人を信用してる。繋ぎ止めようとするところがたまに面倒だけどね‥。この人はたぶん、私を信用してる。そこに絆は生まれるんやと思うで。信用されてる?あんた?〉
‥信用というものこそ、この世界では重要やと思う
羽ばたく視界。陸から空へ。青い。今までのすべての蓄えが脆くも壊れてもいい、まるで砂みたいに。それほど悔しくなった。この身長差は、眼にするものさえ、異なるんだ。人間に対する理解力そのもの。単に醜いものやと想っていた。主人だけ変わってると‥そうおもってた。顔をつきあわす自分自身。
おどろおどろしく、浮き出る汗を弾く漆黒のアスファルト
跳ね返す日差しのベクトル。
辟易として、離れてしまう。
犬は尻尾で見送り、都会の端くれにある何でもない光景へと紛れていった。勝ち誇ったような残像がボクとの間に存在する。
それから。ほぼ毎日。主人の散歩に付き添う形で同じ道、お馴染みとなった場所で一息ついている。白猫は現れず、焦げ茶色の犬も助言以降、姿を見せない。今日もまた家に帰ると、ごろ寝。あとのふて腐れ。
夕方、時々、早送り。再生しないカラダ。
外はぐずついている。曇り空に埋もれた太陽が傘をもつ僅かな人行き、眺めている。目があえば、眩しさもなく、時は過ぎてしまう。窓辺から振り返り、見下ろした主人のデスク。
積もる書籍に取り囲まれ、たたずむ牙城がある。
主人は頭を抱えている
掴むのは少々白い線と線が目立つ前髪。くしゃくしゃにして、勢い余り、“牙城”をぱたり閉じた
すかさず―ペンを取り、貪るように瞳の奥に宿るものー無の世界へ放出すれば文字として蘇らせた。にらめっこしたり、痩せた頬肉に染み付いた無精髭はまるでサボテン。乾ききっている瞳はやがて失望にかわり
潤い求めることなく、書き記した痕跡を揉みくちゃに破壊した。




