♯2
(ただいま)
心の中で呟いて、無言で帰宅すると目覚めたように点灯する玄関照明。(お帰りなさい―。)まるでそんな風に口ずさんでいるのか。限りある光で迎える、自宅の匂い。急いで廊下のスイッチを押す。
ほんのり冷たいフローリングで履き替えた草履、突き進む。
【夜。】1Kの独特の生活感
駆け出しの大学時代に逆戻りした今がある。母との会話から時間は無駄に過ぎ、海なんか見ようと思い立って、夜空の海岸へ向かったっけ
【……。】
今朝から何もかもが凍りついた空間。着替えもせず、温かそうなベッドにダイブする―。
(…)
いつから、間違えたんかな
…俺ん中の、人生。
(真希。)
天国か極楽か知らんけど
お前がいる世界なら、まだなんとか
安心して‥。。
優しくも切ない。微笑んだ女性の残り香を思い出す。
…
《―》
瞼が半落ちする、ちょうどその手前。
眠りにつく予感を、ポケットはさえずる。むくっと起き上がる―微かに反応したスマホを取り出し、見上げた天井の色。
“結衣―、”
彼女からだ‥LINEのメッセージが表示されている。意味もないコンタクト。。神谷は充電器に差し込んでいた。ピースしている人型のスタンプ。しばらく二人だけの空間。
考えなくていい。自然のやりとり。いつまでも、いつになっても、夜は繋がっているみたいで、いいオッサンの夢中してやってるこんなこと
“みて!桜すごく綺麗くない?”
彼女から―桜のスナップが届けられる。稚拙な黄色―中心部の雄しべ。そこから純朴な白が健気に開く。
重なりあい、
集まり会えば、揺らめき、儚い、花びらたち
力強く伸びる木の腕
いくつもの写真に、融合する気持ち
彼女に告白することを迷う。。なんども。さりげなく決意してみても、やっぱり言葉に出来なかった。結衣は明日仕事にいくと思う。俺は明日、コンビニのバイトをやめようかと思う。それさえいえず、コンビニ弁当を温めたものに箸がいく。
やりとりは午前一時まで及んだ。意識がふとした瞬間、暗い深層部に吸い込まれていった