#4
“……”
話しかけようとして話せない
体を並べる。チュンさんの表情、ときどき暮れ泥む
燃え尽きそうな虚しい日差しを浴びて、果てしない徘徊の道
無口で傷だらけの猫へ慰めの言葉も見当たらないまま、チュンさんと視線がぶつかる。その目からポロポロ溢れるもの。言葉ではなくて気持ち。僕は、体で実感した
《何かにそそられる》
胸を、むしゃくしゃに熱くして―
焦がした。揺り起こす思い出の数々。全てガラクタになって―失ったんだ。
さっきの一滴、二匹に会話というものを与える。緩やかに進み、満ちあふれる。また歩き出さなければ終わらないんだ。見えない糸で引き寄せられるような暗い世界、じめっとした不快感から抜け出せば
狭すぎる通路を塞ぐ者がいる―人間が造り出した機械だと知って
ひるんだ脚、都会のど真ん中
太陽は最期の輝き―幕切れにふさわしい姿は美しさも醜さもみんな包み込んでくれる
街灯はまだ眠ったまま。
宛もなく歩いていた
動かない巨大な建物の中へ甲高い足音たちが向かっている。それを駅といって―熱しやすく冷めやすいアスファルトを支配してる‥縦横無尽な車はどこ行くの…どいつもこいつも耳ざわりに聴こえる白線の内側、道路の片隅。穏やかな人波みを見物していた。急勾配な坂道を登り、迷路のようにいりくんだ路地からやっと視界は拓けてくる
人間の少年たちは曖昧な笑みを浮かべながら、駆け足で向かう、公園のある方へ―先頭を切ったのはチュンさんだった
少年たちは、笑い声と共に消え去ってゆく。後ろ姿をみて思う。たぶん、彼らには家路があるから急ぐんだろう。…と、前を行くチュンさんも同じことを云っていた気がする
誰もいなくなった乾いた土の上、一羽のカラスが現れて、忙しく空へ飛び立った。
人間たちのため、人間の手によって造られたもので、溢れてる。これが現実。猫にとっても利用価値はあるけれど、只々、センスを疑うばかり。点々としている摩可不思議な遊具があり、中でも異様に目立つのは真ん中を陣取るコンクリート遊具だ。
一番恰幅の良くて、穴だらけで奇妙な奴だけど、、心なしか遠くの街を眺めながら、沈むオレンジ、見届けているようだった。言葉、紙飛行機になって、チュンさんまでは届かず、振り返ることなく、流されるがまま墜落した。
風の柔らかいのを横顔で感じる。
(通りすがりの公園を物色なんかせず、自分の拠点とすることに、ためらいは無いみたい。)
―何かあったらいつでも来てな。俺のせいで、ロンを巻き込んで…
本来の姿ではないと知ってる。突き放そうたって、だから、寄り添うんだ。茶色い猫の傷ついた体へ、小さな舌を伸ばしてる…別れる時が来たんだね。傷を舐めながら、確認した。瞳に映ったチュンさんは自分のその後を悟っているかのようだった
日は没すると同時に、枯渇してゆく。胸の奥から、じわじわ込み上げる淋しさ。惜しむように、来た道の途中で、もう一度だけ振り返る。コバエは乱舞している。得体の知れない不気味な存在になり、生恐ろしい。その渦の中、尻尾を前足に巻き付けて、じっと、こっちばかり静観している
道の脇に出るとチュンさんの視線の前、声をかけられ、振り返るー
そこにもう、茶色い猫は居なかった。
****
締め切られた家を見上げ、なんども、諦めず哭いた
神様は現れ、明るい〈日差し〉がウッドデッキに差し込む。夜中の、いちるの希望、そんな風に見えた。温もりに‥拾われる。お母さんだった。持ってきたタオルでお母さんの細い腕の中、汚れを丹念に拭いてもらった。ふわふわの生地はだんだん染みを産み、狭まる視界の中心から顔を出すと、、主人がいる
案の定、とても怒っていたけど
その分、ありったけの心配にくるまれた
あれから 部屋の机に向かう主人の足元、離れることはなかった。照りつける灯りを背に肌でわかったいくつもの温もりがある。
“ありがとう‥”
あのとき、チュンさんは確かにそう言ったんだ。別れ際で
ボクに駆けめぐる思い。夢と現実、これはたぶん、紙一重だ。




