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神谷サンちの猫―Kamiyasanchi・no・Neco―  作者: 風魔 和之
第Ⅲ匹 猫に小判
28/50

#3

突如向けられた爪の先で断崖絶壁に詰め寄られた

背中越しには怒濤の青い孤独

突っ張った琴線から鳴り響く寂しさ悲しさ虚しさ‥

人間に飼われていること。パチケンの表情から窺える蔑んだ気持ちが遂に、はちきれた―


お前、人間(アイツ)らに猫の尊厳を奪われたくせに首輪なんかしてヘラヘラすんなよ…。


訳もわからず

身を守るため、傷ついた盾


〈……〉


―ちょっと言い過ぎじゃないですか。

視線は微かに移り行く


チュンさんだった。もうどうしようもなく、世界が闇へと展開する。普段穏便な草木はざわついている。きっと嘲笑ってるんだろう。こんな惨めさを、それでも、ボクを守ってくれた


《パチケンの衝動が走った》

強風に煽られた火花が散る。首根ッコ掴まれ茶色い猫は地面に叩きつけられた。激しく絡まり会う怒りが街を飛び出し、暴力へと向かう


ウーピンとボクは急いで後をおった、もう後戻りできない。繰り広げられる一面の城下町に風は亨る―灯籠が並ぶ通り道で砂利は白波のごとく飛び散った。鋭利な本能を剥き出しにして、ねこ眈々と狙う。周囲は口をつむり、はりつめた視線がのみこめずにいる


身も心もボロボロになった。

地面になんど沈んでも、立ち上がる。その牙から滲み出る怒りを湛え、黒猫へ放たれた眼差し。一触即発の距離を保ったまま、お互い砂ぼこりにまみれる。闘争心を休め、呼吸整えると、目には見えない境界線は甘くなり、掻い潜られる―チュンさんは噛みつきかえし、黒猫の足蹴にされて砂利道で弊れた。パチケンはこの世に蔓延(はびこ)る獣でもない形相で何度も飛びつき、引っ掻き、牙を食い込ませていく


血の匂いは漂い始めた。ウーピンはなんども間に入ろうとしていた。当のボクは激流に怯え、ただ視てるだけ。愕然となる。打ち寄せる細波はチュンさんからボクに向かう。前脚に絡まった。その時の茶色い猫の顔は一生忘れない


気づけば、チュンさんの尻尾は

弱々しく、ぎゅっと強くボクの右脚を掴んで離さない―咄嗟に今いるこの場所から―時は駆け出した。


チュンさんの後ろ姿に引きずられながら、階段を転がり落ちる小石たち


首輪が無性に締め付ける


振りかえると、遥か後方で石段の急斜面が見える

ジンジャを抜け出せば僕らの凄まじさも衰えていった

黒猫は、追ってこなかった。


都会と森が共存した理想の国ジンジャ。一度は生きるための答えだと思った無人の国家も木洩れ日の中、次第に消えていった。通いなれた路地にさえ、しおらしく見送られ、人の住む街へ()づれば、(たむろ)する野良猫の好奇な目が心まで届く


それでも、力の限り走りつづけた

思い出も未来の一部さえ

全て置いてきた


もう二度と振り向かない

涙なんか‥涙なんか、湧いてこないけど

ただ前に広がる―この景色は別の未来なんだと信じてる


あれから目的もなく西へと向かった。


筋雲が流離(さすら)う頃

未熟な夕暮れは二匹の歩みを、完全に停めた。



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