#3
突如向けられた爪の先で断崖絶壁に詰め寄られた
背中越しには怒濤の青い孤独
突っ張った琴線から鳴り響く寂しさ悲しさ虚しさ‥
人間に飼われていること。パチケンの表情から窺える蔑んだ気持ちが遂に、はちきれた―
お前、人間らに猫の尊厳を奪われたくせに首輪なんかしてヘラヘラすんなよ…。
訳もわからず
身を守るため、傷ついた盾
〈……〉
―ちょっと言い過ぎじゃないですか。
視線は微かに移り行く
チュンさんだった。もうどうしようもなく、世界が闇へと展開する。普段穏便な草木はざわついている。きっと嘲笑ってるんだろう。こんな惨めさを、それでも、ボクを守ってくれた
《パチケンの衝動が走った》
強風に煽られた火花が散る。首根ッコ掴まれ茶色い猫は地面に叩きつけられた。激しく絡まり会う怒りが街を飛び出し、暴力へと向かう
ウーピンとボクは急いで後をおった、もう後戻りできない。繰り広げられる一面の城下町に風は亨る―灯籠が並ぶ通り道で砂利は白波のごとく飛び散った。鋭利な本能を剥き出しにして、ねこ眈々と狙う。周囲は口をつむり、はりつめた視線がのみこめずにいる
身も心もボロボロになった。
地面になんど沈んでも、立ち上がる。その牙から滲み出る怒りを湛え、黒猫へ放たれた眼差し。一触即発の距離を保ったまま、お互い砂ぼこりにまみれる。闘争心を休め、呼吸整えると、目には見えない境界線は甘くなり、掻い潜られる―チュンさんは噛みつきかえし、黒猫の足蹴にされて砂利道で弊れた。パチケンはこの世に蔓延る獣でもない形相で何度も飛びつき、引っ掻き、牙を食い込ませていく
血の匂いは漂い始めた。ウーピンはなんども間に入ろうとしていた。当のボクは激流に怯え、ただ視てるだけ。愕然となる。打ち寄せる細波はチュンさんからボクに向かう。前脚に絡まった。その時の茶色い猫の顔は一生忘れない
気づけば、チュンさんの尻尾は
弱々しく、ぎゅっと強くボクの右脚を掴んで離さない―咄嗟に今いるこの場所から―時は駆け出した。
チュンさんの後ろ姿に引きずられながら、階段を転がり落ちる小石たち
首輪が無性に締め付ける
振りかえると、遥か後方で石段の急斜面が見える
ジンジャを抜け出せば僕らの凄まじさも衰えていった
黒猫は、追ってこなかった。
都会と森が共存した理想の国ジンジャ。一度は生きるための答えだと思った無人の国家も木洩れ日の中、次第に消えていった。通いなれた路地にさえ、しおらしく見送られ、人の住む街へ出づれば、屯する野良猫の好奇な目が心まで届く
それでも、力の限り走りつづけた
思い出も未来の一部さえ
全て置いてきた
もう二度と振り向かない
涙なんか‥涙なんか、湧いてこないけど
ただ前に広がる―この景色は別の未来なんだと信じてる
あれから目的もなく西へと向かった。
筋雲が流離う頃
未熟な夕暮れは二匹の歩みを、完全に停めた。




