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神谷サンちの猫―Kamiyasanchi・no・Neco―  作者: 風魔 和之
第Ⅱ匹 猫は三年の恩を三日で忘れる
23/50

#9

〈そして、〉


今日も紙屑みたいに一日を費やした

寂れた和室に入り浸る。仄暗い猫。


きょろきょろしてる「お父さん」。テレビは目覚め、満月の夜、花火の生中継。


ついさっき地震があった。

震災のときもこんな月だったと朧気に言い出す。お母さんがしみじみ反応した。台所へ去る後ろ姿を見送る、あの瞳、人間が懐かしんでいるときに滲ませる潤いだろうか。押入れのアルバムを整理してる萎れた背中は部屋着の皺が目立つせいか。ふりかえるさきにいるボクへ優しく微笑むだけ。


侘しいちいさなテーブル下。身をぐったりさせながら、雫のように伝わる響。世間離できる居場所からヌッと出ていく。目と鼻の先、分厚い眼鏡を通して本らしきものに送られる優しい眼差し


ボクも見せてもらった

過ぎ去ったはずの昔は鮮やかにいくつもの四角い世界で息づいている

それを人は“写真”と云うんだ

めくるめくのはメモリー。

深く刻みこまれた記憶を一頁の端、つまみながら丹念に見ているよう


この家の住人たちをはじめ、見知らぬ人間模様も綴られている

離ればなれになったのか連想してしまう


脇役たちの中でも特に目を引いたのは


いつも主人の左脇。

笑顔を残してる人がいる


その人は二階でみた女性とはまた違う“味わい”

ふと、見上げる。鼻の中腹までずり落ちた眼鏡を直し、なかなか次の頁にはいこうとしない。


ボクの視界もその四角い写真(せかい)に吸い込まれそう


動かない瞳は語る


思わず見入る。


……。


テレビから伝えられるのは笑いに満ちたきらびやかな裏側


そういえば元気にしてるかな。

ボクにも家族はいたんだ。

あまり想い出にない。


お父さんは突然の事態に冷凍された世界を閉じた


声―。それは探し物がないと言い放つ、お母さんの声だった。隣接するリビングへ急いで旅たつ。まだ喋り足らないようにテレビは消え去った。置き去りにされた本は今、テーブルの上、ぱったり落ち着いている

ボクは無意識に視線を飛ばしたが、届かず、あきらめている


〈夕食後もなお、もうひとつの欲求は解消されず、声と時間の中を通りすぎて、現実の崖―夢に落ちる〉


雑誌を嘗めるように見回す主人の背後から意識は途絶えた



繰り返される朝の気配


逃避行(エスケープ)の使者はやっぱり今に突き放すと、軋んだ身体


動き出す日の光。



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