#7
主人があの城は〈ジンジャ〉だって言ってた。
頭ん中ひっくり返しても、やっぱり合点いかず、モヤモヤしたまま、いつしか床についていた。久しぶりの爆睡―。
【かちゃかちゃ‥】
ピアノを弾くように何か叩いている…誰か居る
それは主人の丸めた背中。曲線がだんだん濃くなり、放たれる音、瞬きさえ忘れ、忙しない。生きていて、何の実感もない、んなときもあった。でも今は何か違う現実
うっすら還ってきた。
目の前に置かれた状況と向き合う、答えなんてわからないのにどうして?
視線を落とさず、ちょっぴり長く、椅子に座るその人の後ろ姿、見れた気がした
気持ちは段々寄り道するようになる、重たすぎる腰を上げて、僕に気づいた主人
「おはよう」。おはようって
―何?
ボクは多分、きょとんとしてる。主人が軽く伸びをして答えは教えてくれず、机から離れた。頭を撫でられ、オハヨウの意味、もういちど聴いても、やっぱり答えてくれない、睫の奥に潜むものはいつも綺麗だ。
朝飯前に、割り当てられたボクの住処へと向かう足取りは小慣れたもんだ。取り巻く環境は閑静として味気ないけど、よくよく見れば、小綺麗な部屋に目立つちいさな置物や忘れもののような生活品で溢れてる。散策すると、満たされない思いで、主人の部屋に戻りたくなった。
外で夏が鳴り響く―些細な音は止んだり、降ったり、たまに部屋からこぼれる深いため息。中途半端に開いた扉の隙間で見え隠れする大きな人間の、ちいさな事。そびえ立つ柱を2本見上げると主人のうつむいた顔に出逢える。大丈夫か?―ボクは訊ねてやった
「お腹すいたん?先、飯にしよっかあ」
柱は突如、動き出して、天まで伸びると主人の脚だったことに気づく
空虚な世界で煌々としているのは机の上。主人が去ったあともなお居続ける銀の柱四本をつかみ、ボクは固定された平らな場所に登り着く。ここから、ひと息ついて部屋を見渡すと、人間に一歩近づいた気がした。だから高いところは好きになる。
見知らぬ物体が微動だもせず、手前の複数あるボタン。そして向かい合ってボクを凝視する四角い画面。いくつもの文字が宿っている
「こら」
ボクは宙に浮いた。
呆気にとられ、じたばたする気力もないまま、絨毯の上、舞い戻る。
主人を先頭にして歩いた。ボクの住処へ移動して、朝ごはんの準備してくれてる。つい、さっき出会ったアイツの事ばかり気になり出して落ち着かない・おちつかないー。いつまでもたっても存在を引きずっていた。
あの人間と対等に向き合うなんて。無口な奴だけど「神」という同じ仲間なのか
むしゃくしゃして、また飯にかぶりついていた。ぼろぼろ溢した。主人は笑っていた。牙をなめた。腹も満たされ、髭を整えて、時間弄ぶ。
宛もなく、住処を離れた。
寂しい道通りの先、開かれたわずかな隙間。ちらりと覗いても、さっきと変わらない主人が見えるだけ。何かしてる。緑色の物体。手に持って、もう片方の人差し指の動きはひたすら挙動不審、ある箇所を往き来してる。瞳なんて、心さえ奪われている。匂いとその雰囲気から年季の入った人間のはず。なのに主人が机の作業を止めて、あそこまで注目するアレはなんだろう
チュンさんなら知ってそうだ。でも今はいないけど。
髪の毛といい、寝間着の柔らかい皺。まだ覚めやらぬ朝の顔。ボクの入室さえ気づかないほど、背を丸め、取り組んでいる。裸足を横切ると、ようやく存在に気づいてくれたみたい。振り返ってボクを視た背後にある一枚の写真。不安定に飾られていた。映るのはたった一人の女性と主人に瓜二つの男性。ふたりだけの見知らぬ街。
『―』
主人の背中。急にピンとなる。手元のものを横顔へと密着させた。高らかに鳴り出した声。小刻みに揺れる後頭部、正直つまらない。無気力な主人を明るくさせる相手は一体だれなんだろう。。あの遠くでちいさな笑みをみせる人間の女性。
睨み付けてやった。




