#6
今朝早く、ハカバの仲間たちは離散した
野生の食生活に慣れるのは、なかなか難しいもんだ。基本から応用まで狩りの仕方、おさらいしてきたけど。腹がすいたら、もう出かけるしかない。嗅覚はやたら敏感になる
訳もわからず土手に行き着いた。燦々と風に任せる、小川の緩かな勢いに淀みができて、鈍くなる流。また時間を経ると何事もなかったように元に戻る。蟠りというか、答えのない茂みにさいてる一輪の花
何かある。引っ掛かるものが、なにかある。心に
たとえ他の猫が見てなくても運命か浅き太陽の光か、いつもボクは見られている。ゆったり欠伸して鼠も鳥さえいやしないと、降り注ぐ蝉しぐれ、やみそうにない。カチカチの熱い地面を避け、何も考え込まず・その先の未来へ迷い込む、見知らぬ街
匂いを頼りにやってきた
染みったれた路地裏で時間潰すと
人間の出したゴミ箱
目が行く
視線をぶらぶらしていると暑さのせいか来た道が歪んでみえた。我に帰った。迷宮の入り口を見失っていた。不安はどれほどあるのか足裏の汗。勘と本能を便りにやってきたのは―生臭い敵陣
都会だった。
人間たちから身を隠しながら街角の先端に今、ボクはいる
巨体をゆり動かしながら、好奇な目で見下ろされた。社会。狩りさえまともにできやしないのか、落ちぶれた可哀想な猫、欲と快楽のその向こうは、真っ白。でした。
犬に吠えられ、物陰へと逃げ込む
まっしぐらな臆病風。しばらくののち、そいつはある一軒家の門番をしていることに気づいた。尻尾をふって、たゆんだ鎖。退屈そうに目の前の景色を淡々と眺めている
……!
翼の消えた世界
じめっとした視界を突き抜けるような碧空
積もり乱れて雲の領域を侵犯しようとするもの
その巨大さゆえ、息をのみ、いよいよ自由さえ奪っていく
動きだけじっと見つめ、時は地味に過ぎ去った
魔物が棲みついた街のもとへ
訪れると非現実の横たわる現実に遭遇する
はじめての道通りは人で溢れていた。真っ赤な大型車、ずらりと脇について、挑むのは《灰色の魔物》日常と分離した黄色いテープの向こうで小さな集合体が挑んでいる。ボクはたまらず、眼を背け走る―飲まれる町は遠のき、曲がり角、迷宮の出口を見つけ
活発な陽射し、やっとこさ平穏にたどり着いた
「お城」の裏山。目指すのはあの街。ハカバは、猫たちの収穫自慢で盛り上がっていた。
見覚えのない勇ましい一匹の黒猫に会釈され、気づいたパチケンはボクを紹介する。黒猫はとなり町の出身だという
《え?》となり町―
火事なかった?―息を切らしてボクは、そいつに聞いた。
すると、尻尾引っ込めて、構わず輪の中心から飛び出してしまった。呆気にとられ、周囲の心配をよそにいつしか日は傾き―
夜。再び訪れると鎮火された後で、通り抜けることが許されていた。闇に紛れて、覗くきらびやかな世界の断片。滞る人波。変わり果てた建物がある、元々は何かのお店だったのか。前の道路脇、真っ黒な残骸がブルーシートに置かれ、焦げ臭い。作業服の男は高く上げられ電線をいじくったり、はたまた、見張る番人がいる。絶えきれず、異様な雰囲気を後にする
あれから毎日、いつも黄昏時、魔物の姿が消えた商店街を往復するようになった
見物客も減り、やがて無関心のオブジェに成り果てたけど、ボクたちと同じ、きっと思い出はあったのだろうか
思い出はつんと臭い。
人間たちのテリトリーには、寂れた看板ひとつ「少年たちを非行か守ろう」今も立て掛けられている
お盆のように丸い月、白の提灯が立てられるようになったハカバ。
今宵、「城下町」は華やかな浴衣姿で溢れた
涼を求めて縁側の影に潜む。ハゲ散らかしたオッサンがひとり訳もなくよってきて、予想通りたち去った
入れ違いで、ある一人の男と出会う
優しそうな瞳だった。片手には扇子
ふいに撫でる右の掌、柔らかい
抱きしめられた。きょとんとするボクは
借り物の詞なんかではない何か別の言葉を聴いて、
なんで着飾らないんだろう
なんで胸に届くんだろう
意味わからないけど、奥の方ばかり痛くなった
時折ふく風に揺れる言葉。
その豹変した眼に気づかされ、しばらく、茶色い腕のなか、くるまれ‥
つかの間の空中遊泳だった
袖揺らめく賑わいから離れた、なんの関係もない・只々冥い片隅。近寄りがたい旅の原点に誘う時の空
「…お前、名前、“仄”にするわ」
ほのぐらいし
メスだし、いい名前やろ?
ずっと考えてた。




