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神谷サンちの猫―Kamiyasanchi・no・Neco―  作者: 風魔 和之
第Ⅱ匹 猫は三年の恩を三日で忘れる
20/50

#6

今朝早く、ハカバの仲間たちは離散した


野生の食生活に慣れるのは、なかなか難しいもんだ。基本(イチ)から応用(じゅう)まで狩りの仕方、おさらいしてきたけど。腹がすいたら、もう出かけるしかない。嗅覚はやたら敏感になる


訳もわからず土手に行き着いた。燦々と風に任せる、小川の緩かな勢いに淀みができて、鈍くなる(ながれ)。また時間を経ると何事もなかったように元に戻る。蟠りというか、答えのない茂みにさいてる一輪の花


何かある。引っ掛かるものが、なにかある。心に


たとえ他の猫が見てなくても運命か浅き太陽の光か、いつもボクは見られている。ゆったり欠伸(あくび)して鼠も鳥さえいやしないと、降り注ぐ蝉しぐれ、やみそうにない。カチカチの熱い地面を避け、何も考え込まず・その先の未来へ迷い込む、見知らぬ街


匂いを頼りにやってきた

染みったれた路地裏で時間潰すと

人間の出したゴミ箱

目が()


視線をぶらぶらしていると暑さのせいか来た道が歪んでみえた。我に帰った。迷宮(まち)の入り口を見失っていた。不安はどれほどあるのか足裏の汗。勘と本能を便りにやってきたのは―生臭い敵陣


都会だった。

人間たちから身を隠しながら街角の先端に今、ボクはいる

巨体をゆり動かしながら、好奇な目で見下ろされた。社会。狩りさえまともにできやしないのか、落ちぶれた可哀想な猫、欲と快楽のその向こうは、真っ白。でした。


犬に吠えられ、物陰へと逃げ込む

まっしぐらな臆病風。しばらくののち、そいつはある一軒家の門番をしていることに気づいた。尻尾をふって、たゆんだ鎖。退屈そうに目の前の景色を淡々と眺めている


……!



翼の消えた世界

じめっとした視界を突き抜けるような碧空(あおぞら)

積もり乱れて雲の領域を侵犯しようとするもの

その巨大さゆえ、息をのみ、いよいよ自由さえ奪っていく

動きだけじっと見つめ、時は地味に過ぎ去った


魔物が棲みついた街のもとへ

訪れると非現実の横たわる現実に遭遇する


はじめての道通りは人で溢れていた。真っ赤な大型車、ずらりと脇について、挑むのは《灰色の魔物》日常と分離した黄色いテープの向こうで小さな集合体が挑んでいる。ボクはたまらず、眼を背け走る―飲まれる町は遠のき、曲がり角、迷宮の出口を見つけ


活発な陽射し、やっとこさ平穏にたどり着いた


「お城」の裏山。目指すのはあの街。ハカバは、猫たちの収穫自慢で盛り上がっていた。


見覚えのない勇ましい一匹の黒猫に会釈され、気づいたパチケンはボクを紹介する。黒猫はとなり町の出身だという


《え?》となり町―



火事なかった?―息を切らしてボクは、そいつに聞いた。

すると、尻尾引っ込めて、構わず輪の中心から飛び出してしまった。呆気にとられ、周囲の心配をよそにいつしか日は傾き―



夜。再び訪れると鎮火された後で、通り抜けることが許されていた。闇に紛れて、覗くきらびやかな世界の断片。滞る人波。変わり果てた建物がある、元々は何かのお店だったのか。前の道路脇、真っ黒な残骸がブルーシートに置かれ、焦げ臭い。作業服の男は高く上げられ電線をいじくったり、はたまた、見張る番人がいる。絶えきれず、異様な雰囲気を後にする


あれから毎日、いつも黄昏時、魔物の姿が消えた商店街を往復するようになった

見物客も減り、やがて無関心のオブジェに成り果てたけど、ボクたちと同じ、きっと思い出はあったのだろうか

思い出はつんと臭い。

人間たちのテリトリーには、寂れた看板ひとつ「少年たちを非行か守ろう」今も立て掛けられている



お盆のように丸い月、白の提灯が立てられるようになったハカバ。

今宵、「城下町」は華やかな浴衣姿で溢れた

涼を求めて縁側の影に潜む。ハゲ散らかしたオッサンがひとり訳もなくよってきて、予想通りたち去った


入れ違いで、ある一人の男と出会う


優しそうな瞳だった。片手には扇子

ふいに撫でる右の掌、柔らかい

抱きしめられた。きょとんとするボクは

借り物の詞なんかではない何か別の言葉を聴いて、

なんで着飾らないんだろう


なんで胸に届くんだろう


意味わからないけど、奥の方ばかり痛くなった

時折ふく風に揺れる言葉。

その豹変した眼に気づかされ、しばらく、茶色い腕のなか、くるまれ‥


つかの間の空中遊泳だった

袖揺らめく賑わいから離れた、なんの関係もない・只々(くら)い片隅。近寄りがたい旅の原点に誘う時の空


「…お前、名前、“(ほのか)”にするわ」


ほのぐらいし

メスだし、いい名前やろ?



ずっと考えてた。



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