♯1
「―」
ため息がそっと零れる
嘘だろ?…また出そうになるのを押さえている、つかの間、これは現実だと噛み締めても、噛んで噛んでも飲み込めない。ココロは固定されず、ぶらぶら・ふらふら。…頻尿が最近、特にひどいから、覚悟はしていたのだが…。こういう事か
なぜか笑ってしまふ。薄い肌色の手のひら見て
【前立腺癌。】
感じられない。なにも。
普通の手のひら。なのに
自分は
失意の中に居る
真っ白な世界。生々しい現実が差し込むとそこは横断歩道の前。
《自分はいた。》
“青”信号で止まっている。
医者の言葉がよぎる
(まずは…治療に専念していきましょう。病状が緩和したら、在宅ケアといって、途中から在宅療養に切り替えるという方法もあります。ですがこの場合、ご家族のご協力が必要など、いろいろ条件がございまして…まあ、それは経過をみて、改めて考えましょう。)
病院での検査から色々あったけど、あっという間に失われた時間。あの先生は確かまだ若い。自分よりも。
なんだったんだ‥人生って
「……」
ようやく歩を進める―限られた白線の道標。澄みきる空をみて、スマホ片手にアドレス探す人差し指。電話をかける。
「あ。おれおれ―」
優しい母の返事に大人は―ふと、した拍子で涙腺震えてしまう。
季節は春。もうすぐ誕生日だ
夕暮れ時。
公園のベンチで話し込む独りの中年男性。肩幅の広い細身、小麦色で・白いカッターシャツを鮮やかに着こなしている。スマホ片手にして、眉尻はつり上がったままだ。革靴で〆た長い脚を組んだ。右の手のひらに、もたれかかって、平然と何かをアピールする“コイツ”
命尽きかけそうな乾電池のマーク
今は。どうでもいい。
昔に比べて、母の話す量が多くなっている、そんな気ぃさえしてきた、目眩。時間は前へ前へ歩を刻む。
「あんな母さん―」
そんなとき、不意に立ち止まる歴史。
走馬灯が照らすガラスの思い出。今更ながら、涙が溜まる。
…おれ、今日、ビョウインいったんやけどさー…
“え?どうしたん。具合悪い所でもあったん?”
ヨメイ半年やって。
“は?なんて?”
少し笑って見せる。不思議と瞳から何も零れてこなかった。睫毛に隠れてしまう。
「だから…【余命】半年なんだって。」
―冗談でも、そんな嘘ついたらアカンで、
「冗談ちゃうって。ホンマやって」
“…ホンまに?”
しばらくの沈黙。離れ離れの二人を包み込む。寂しい都会の公園は、訪れた子供でようやく活気づいてきた。
「ごめん。またかけ直すわ。」
“どうでもいいから、あんた、たまにはこっち帰ってきなさい!”
「‥え?」
“もうそんなん言ってる暇あったら帰ってきなさいよ。あんた、ちゃんとご飯食ってんの…?…仕事は?そや―帰ってきたら、ひさしぶりにみんなで飯食お。あんたの好きなもん、作っとくわ。‥な?”
「お、うん…」
“今なんか用事あるんちゃうの?大丈夫?”
「あ。。―うん」
“あ。そう。んじゃあ、いつでも帰ってきなさいね。じゃあね”
矢継ぎ早に言葉は放たれていって、気づけば無機質な音が続く。せっかちな母ならではの返し。切られたスマホに目が行く
「―フ。」
神谷は、滑り台に取り巻く子どもたちを見ていた
…あいつら、なにしてんねん。バカやろ。意味わからんわ。なんで、そんな必死なん
。。なんで…笑えてくるんやろ