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神谷サンちの猫―Kamiyasanchi・no・Neco―  作者: 風魔 和之
第Ⅰ匹 猫の目
2/50

♯1

「―」


ため息がそっと零れる


嘘だろ?…また出そうになるのを押さえている、つかの間、これは現実だと噛み締めても、噛んで噛んでも飲み込めない。ココロは固定されず、ぶらぶら・ふらふら。…頻尿が最近、特にひどいから、覚悟はしていたのだが…。こういう事か


なぜか笑ってしまふ。薄い肌色の手のひら見て


【前立腺癌。】


感じられない。なにも。

普通の手のひら。なのに

自分は

失意の中に居る


真っ白な世界。生々しい現実(やみ)が差し込むとそこは横断歩道の前。


《自分はいた。》


“青”信号で止まっている。


医者の言葉がよぎる

(まずは…治療に専念していきましょう。病状が緩和したら、在宅ケアといって、途中から在宅療養に切り替えるという方法もあります。ですがこの場合、ご家族のご協力が必要など、いろいろ条件がございまして…まあ、それは経過をみて、改めて考えましょう。)


病院での検査から色々あったけど、あっという間に失われた時間。あの先生は確かまだ若い。自分よりも。


なんだったんだ‥人生って


「……」


ようやく歩を進める―限られた白線の道標。澄みきる空をみて、スマホ片手にアドレス探す人差し指。電話をかける。


「あ。おれおれ―」

優しい母の返事(こえ)に大人は―ふと、した拍子で涙腺震えてしまう。


季節は春。もうすぐ誕生日だ


夕暮れ時。

公園のベンチで話し込む独りの中年男性。肩幅の広い細身、小麦色で・白いカッターシャツを鮮やかに着こなしている。スマホ片手にして、眉尻はつり上がったままだ。革靴で〆た長い脚を組んだ。右の手のひらに、もたれかかって、平然と何かをアピールする“コイツ”


命尽きかけそうな乾電池のマーク

今は。どうでもいい。


昔に比べて、母の話す量が多くなっている、そんな気ぃさえしてきた、目眩(めまい)。時間は前へ前へ歩を刻む。


「あんな母さん―」

そんなとき、不意に立ち止まる歴史。

走馬灯が照らすガラスの思い出。今更ながら、涙が溜まる。


…おれ、今日、ビョウインいったんやけどさー…

“え?どうしたん。具合悪い(とこ)でもあったん?”

ヨメイ半年やって。

“は?なんて?”


少し笑って見せる。不思議と瞳から何も零れてこなかった。睫毛に隠れてしまう。


「だから…【余命】半年なんだって。」

―冗談でも、そんな嘘ついたらアカンで、

「冗談ちゃうって。ホンマやって」


“…ホンまに?”


しばらくの沈黙。離れ離れの二人を包み込む。寂しい都会の公園は、訪れた子供でようやく活気づいてきた。


「ごめん。またかけ直すわ。」

“どうでもいいから、あんた、たまにはこっち帰ってきなさい!”

「‥え?」

“もうそんなん言ってる暇あったら帰ってきなさいよ。あんた、ちゃんとご飯食ってんの…?…仕事は?そや―帰ってきたら、ひさしぶりにみんなで飯食お。あんたの好きなもん、作っとくわ。‥な?”

「お、うん…」

“今なんか用事あるんちゃうの?大丈夫?”

「あ。。―うん」

“あ。そう。んじゃあ、いつでも帰ってきなさいね。じゃあね”


矢継ぎ早に言葉は放たれていって、気づけば無機質な音が続く。せっかちな母ならではの返し。切られたスマホに目が行く


「―フ。」


神谷は、滑り台に取り巻く子どもたちを見ていた

…あいつら、なにしてんねん。バカやろ。意味わからんわ。なんで、そんな必死なん


。。なんで…笑えてくるんやろ


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