#5
ここはハカバという街らしい。人間どもの終着点だと、パチケンは嬉しそうに言った。
野良時代の仲間たちの、今は拠点らしい
みんな相変わらずだ。時は褪せても、話せば駆け出しのあの頃に戻れる。陽射し残る灰色のストリート陣取って、久しぶりの会話。パチケンだけは輪の中へ入ろうとしない、不意に眼をそらせば、もう・いない。出掛けてしまったんだ。人間が来ないか、ああやって行くんだとウーピンは後ろ姿の行方を語る
昔から血気盛んな黒猫。世を疎い、静粛なリーダー的存在だった。今も変わらない。威圧感というか、話しづらいけど一本筋の通った頼もしい先輩でもある
名もなき放浪時代―別の街で燻ってたボクを誘ったのはパチケン。彼の背中を見て、気づいたら追っていたんだ。それからボクの名付け親になってくれた。あまり上手とは思えないけど。
〈ロン〉の通り名はボクを仲間として認めてくれた称号でもある
ぶち猫ウーピンは、おおらかな反面、神経質で、付き合いも割りとさっぱりしている方だ。皮肉な部分はあるけれど、それらを上回る「愛」がある。人間のことに豊富な知識を持ち、色々教えてもらった。あのパチケンとは同い年だったはず。何が悲しいのか結成した愚連隊でただ一匹パチケンに異論を唱えるのはいつもウーピン。ただ仲違いは決してしない。鎖のように繋がってるから。腐れ縁…絆、ともいう。
おっとりした茶色い猫チュンさん。虎のような風貌の裏腹に消極的で相手の事を思いやる優しい心の持ち主。ボクといちばん年が近い先輩。いつも相談役になってくれた。人間の作ったものに詳しすぎて、視力がちょっと低いらしい
眼張るぐらい忙しい毎日だった集団生活。怒鳴られ、いびられ、笑われつづけ、気がつくといつも夕暮れ。
1日を切り抜けられていた
イマ、想うと
たった一回の出会いから全ては始まっていたんだ。
夕凪の街で顧みる、ボクの脳裏に閃くのは何かの破片―
‥ところで、タンヤオは?どうしてんの
〈タンヤオ〉…退屈な故郷で一番美しかった三毛猫のメス。年は上。たぶん。洒落た髭の揺らめきはいつも真似しようとして、やっぱりできない遠い輝き。
滲んでゆく北西の空。欠け落ちた太陽から最期の陽射しを受け―
タンヤオが帰ってこないらしい。
ふとした拍子で現実にタイムスリップする
人間に囚われたんだ。
“なかなか暮れないでいる”
星なき夜。
【……】
神社の塀に座り込む4匹のねこ。すすけた表情の黒猫は体をなめたり、遠く見つめる。思い思いのことにふける残りの連中、ついた肘、楽な体勢で見上げたら電線を越えた木々のどす黒いこと。ざわざわ話し声が聴こえてくる。綺麗好きなパチケン、みんなとは違う方角を見ている。ボクらはウーピンの昔話にふんふんと聴いているだけだった
〈―俺は若い頃から思ってることがあんねん。ずっと〉
この世に、神はいるのかってことやねんけど。
チュンさんは小刻みに頷いている
…世界は人間を中心に回ってると想わへん?俺は人間たちの動向を観察する必要があると思う。いつも
静かな語り口調のウーピン。なるほど…聞き役の二匹は同調した。だって、年上だもの
《人間が神?んなわけないだろ》
ウーピンの穏やかな眉間は突如、皹が走る
だって、そうだろ?世界は猫を中心に回ってる。人間は昔から俺たちの家族、仲間を引き裂いては殺してきた。そんな人間を俺は許せねぇ。
敵だと噛みついた。
お互い誇り高き猫のため、
火花散るー蒸し暑い夜。
チュンさんとボクは涼しい顔して聞き耳を立てることしかできなかった。頑なに曲げない道があるからだろうか。いつしかボクらは関係のない噺に興じていた
人間の食べ物ってスンゲエ旨いんだって。病みつきになるんだって。だから、俺たち野良の中では絶対口にしてはいけないものって定められている。罰則もあるんだよ
《ロン!》宙に放たれた花火のように
パチケンの呼ぶ声―
お前も・だから、俺たちのとこに帰ってきたんだろ?
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夜の雑木林をぬけると、人間に遭遇し
光る〈自販機〉の闇―赤い空き缶いれの裏手にそっと廻りこんだ。野晒しになったアスファルト。さりげなく一匹が踏み入る
日の昇らない都会をさすらい―
立体に交差する天空のジャンクション。
この世界は人間が造り出したもので溢れている
鮮烈な耀
なぜか見とれてしまう
………
あいつら・本当に神なのか




