#2
新聞の集金が来たとリビングから誰かは告げた。廊下をゆく上下逆さまの老人の姿が目に映りこむ。
寝転がると世界は変わる。晴れた日が強く射しこむ畳の匂い
あの宙に浮いた白い物体―
壁にくっついているのか、彼奴のパカッと開いた口から気持ちいい風がやたら流れてくる。人工的な涼しさに、このまま、ずっとだらだらしてるだろう
一日中、雲の上にいるみたい、和の空間でのびをする。
(そういえば、アイツは牢獄のあった施設にもいたな…仲間か?)
特に変わったことはない時計の針がそろそろ午前を締めようとしている
………。
むくっと立ち上がり、和室を離れた。納屋でごそごそ何かをとりだす後ろ姿の主人。階段のぼるの猫の前に、しんと安まる廊下。
進んで、突き当たり右の―締め切られた・とある一室
独特の気配を放っていた
……
名前、結局、「タマ」になった。
ふとそんな事がよぎり、ドアノブに手がゆく
「……」
扉は開かれ―気にさえ止めなかった《蝉》の鳴き声が飛び散った
昔、主人の妹の占領下だった記憶さえ失ったこの部屋。
何の趣も娯楽さえ遠のいた。すっかり「ボク」の陣地になっている。なんて、個性のない奴だ、寝床やトイレ、食事…ある程度、生きていくのに最適な暮らしが並べられている。飾りつけの自由が不自由にさえ感じくなった。置き去りのペットフードの箱、横にして立ち尽くす。
《……。》
ちいさく揺れた小窓のカーテン
硝子の向こうには意味深な夏。
―ッとして、頭上の棚にかけ登り、捲る視線の先、ぽかんとする。開かれし窓から顔を覗かした網戸。遠くを眺めると、飾り気のない自由が空に羽ばたいてる。毛先に伝わる風が「ボク」を誘ってくる。踏み出すと、わずかな埃が縁に残したメッセージ。
抑えきれない衝動に駆られ、その戸を開いた
叫んだら、勢いよく滑り落ちる声―
唖然さの前に、動転する
逆流する血の気―冷や汗となって、じんわり足の裏に表現される
《―。》
そこから一歩も踏み出すことが出来ず、崖っぷちで唐突なアクションは止まり、狼狽え気を失そうになっていた。意識を揺り動かしたのは、背中にじんわりこもる暑さ、浅き夢から覚め、もう一歩、区切られた、そとの世界へ寝ぼけた片足を踏み入れる
目を瞑り、傾斜した足場に降り立つ
そこは屋根の上だった。
見渡すばかり人類の爪痕、アスファルトで誇らしげに歩くちいさな支配者の姿。辺りは壮大な住宅街、きっとそれでもあるんだろう。一番な大切な居場所
もっと見たい。もっと知りたい。
その一心で軒下の細道に飛び降りる―
どこかへ続く道。
狭くてじめじめした日の当たらない場所。宙に昇るような気分。落ち着こうと呼吸をととのえ、砂利道に刻んだ歴史
飛び込むように入ってくる《刺激》
風と蝉のオーケストラが奏でる一流のワルツにのせて、ボクは駆け出した




