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神谷サンちの猫―Kamiyasanchi・no・Neco―  作者: 風魔 和之
第Ⅰ匹 猫の目
11/50

#10

二人は小学生になったらしい、来るちょっと前、母と父の会話が教えてくれた


現実から逃れようとした神谷。


流れたチャイム―。玄関の出迎えにわざと遅れた。幼い声が聴こえてくる。子供ふたりが玄関にいた。一目みたとき、不思議と焦った。掛けることばみつからなくて、とりあえず「こんにちは」って、視線を同じにした


神谷に対しまっすぐなその目は一瞬たじろぐ

「お兄ちゃん!?‥来てたんだ」買い物袋下げた妹が視線を落とす。弛んだ傘をまとめだした。

…うん。

「ほら、あいさつは?」段に座り込み、靴を脱ぎ始めた妹。背中を丸めたら、やたらはみ出た白い贅肉。遅れてやってきた旦那さん。丁寧に挨拶を交わしてくれた。その旦那に一旦、傘を預けた妹の左手。「何年生になったん?」再度、妹がほらほらと、促した

旦那さんが母から言われたとおり、そのまま、傘立てに入れる。

「…コウスケ、何年生?」旦那さんはもじもじする男のコに話しかける。

つい、こないだまで幼稚園児だった記憶が、ふと、よぎった


もう知らないオジサンになっちまったか。


「まあまあ上がって」母は生き仏のようにニコニコしてる。隣の父も老眼鏡をかけ始めた。

二ねんせい…

“ピース”のぎこちない感じの姪と、振りかぶって人差し指を立てた甥っ子「いっちねんせー!」

「大きくなったなァ~!」母の笑い声は途端に若返った


もう40になった妹との忙しない再会


在宅ケアについては承知してもらってる。妹はことばにさえしないが、やんわり気遣ってくれた


賑やかな一階。年下の旦那さんを中心に(あった)かい団らん。すでに形成されてる光景、距離を感じてしまった


和室から静かに離れ、

日陰となった階段を昇る…


前までは物置だった

自分の部屋―いつのまにか学生時代の記憶を取り戻していた。


でも違う。


昔はもっとくだらない雑貨で溢れていた。下からの笑い声が流れ着いて、そのまま、何も言わず廊下を歩いた。静寂のカーテンを通り抜けて降り注ぐ(たわむれ)の光に、埃、チラチラ耀く部屋があり―両親の寝室であることに気づく。少し、レイアウトが変わっていて、一瞬解らなかった。寄る気はなかったが、覗いてみる。綺麗に整えられたダブルベットの横で、古びた本棚。居場所にこだわりもないのか悠然と立ち振舞って埃を被っていた。

たまたま、上から三段目にあった書籍を見つけてしまう


無造作に取りだし、

流れるままベッドへ身を投じた―。

しばらく童心に返り、瞳が文字を追った。小刻みに蠢く


“…あの時の俺って…”


この頃、有頂天になってた売れっ子作家『神谷龍之介』。四作目の短編小説を発表し、止まることのない連載 芥川賞受賞後もその名はブランド化しつづけた。

…。

右肩上がりの鼻。いまでは、ポキリと折れた天狗。


妻と出会って間もない30代後半の作品。

目を通していると、窓明かりは とある旅へ意識引き寄せた



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