#10
二人は小学生になったらしい、来るちょっと前、母と父の会話が教えてくれた
現実から逃れようとした神谷。
流れたチャイム―。玄関の出迎えにわざと遅れた。幼い声が聴こえてくる。子供ふたりが玄関にいた。一目みたとき、不思議と焦った。掛けることばみつからなくて、とりあえず「こんにちは」って、視線を同じにした
神谷に対しまっすぐなその目は一瞬たじろぐ
「お兄ちゃん!?‥来てたんだ」買い物袋下げた妹が視線を落とす。弛んだ傘をまとめだした。
…うん。
「ほら、あいさつは?」段に座り込み、靴を脱ぎ始めた妹。背中を丸めたら、やたらはみ出た白い贅肉。遅れてやってきた旦那さん。丁寧に挨拶を交わしてくれた。その旦那に一旦、傘を預けた妹の左手。「何年生になったん?」再度、妹がほらほらと、促した
旦那さんが母から言われたとおり、そのまま、傘立てに入れる。
「…コウスケ、何年生?」旦那さんはもじもじする男のコに話しかける。
つい、こないだまで幼稚園児だった記憶が、ふと、よぎった
もう知らないオジサンになっちまったか。
「まあまあ上がって」母は生き仏のようにニコニコしてる。隣の父も老眼鏡をかけ始めた。
二ねんせい…
“ピース”のぎこちない感じの姪と、振りかぶって人差し指を立てた甥っ子「いっちねんせー!」
「大きくなったなァ~!」母の笑い声は途端に若返った
もう40になった妹との忙しない再会
在宅ケアについては承知してもらってる。妹はことばにさえしないが、やんわり気遣ってくれた
賑やかな一階。年下の旦那さんを中心に温かい団らん。すでに形成されてる光景、距離を感じてしまった
和室から静かに離れ、
日陰となった階段を昇る…
前までは物置だった
自分の部屋―いつのまにか学生時代の記憶を取り戻していた。
でも違う。
昔はもっとくだらない雑貨で溢れていた。下からの笑い声が流れ着いて、そのまま、何も言わず廊下を歩いた。静寂のカーテンを通り抜けて降り注ぐ戯の光に、埃、チラチラ耀く部屋があり―両親の寝室であることに気づく。少し、レイアウトが変わっていて、一瞬解らなかった。寄る気はなかったが、覗いてみる。綺麗に整えられたダブルベットの横で、古びた本棚。居場所にこだわりもないのか悠然と立ち振舞って埃を被っていた。
たまたま、上から三段目にあった書籍を見つけてしまう
無造作に取りだし、
流れるままベッドへ身を投じた―。
しばらく童心に返り、瞳が文字を追った。小刻みに蠢く
“…あの時の俺って…”
この頃、有頂天になってた売れっ子作家『神谷龍之介』。四作目の短編小説を発表し、止まることのない連載 芥川賞受賞後もその名はブランド化しつづけた。
…。
右肩上がりの鼻。いまでは、ポキリと折れた天狗。
妻と出会って間もない30代後半の作品。
目を通していると、窓明かりは とある旅へ意識引き寄せた




