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幼恋  作者: 金村春実
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第八章 正論

翌日の朝会でぼくのクラスに転校生が来た。その転校生は晶だ。つまり晶とは同い年だったのだ。晶は昨日、ぼくに見せた少女の顔ではなく凛とした

「偽り」

の顔で自己紹介をした。クラスの連中は皆晶に見入っていた。それもそのはず。ぼくは昨日涙や苛つきのせいでちゃんと晶を見ていなかった。

長いサラサラの髪…大きな瞳…透きとおった肌…桃色の唇…華奢な体つき。

どこを見ても晶は綺麗だ。ファッション雑誌に載っていてもおかしくないくらい。どうしてぼくは気づかなかったのだろう…視力の問題だろうか?はたまた心の問題なのだろうか?

そんなことを思いながら晶から視線をずらし窓の向こう側を見た。雪はまだあるけど…

もう三学期も終わりだな…来月から三年生か…

外の雪を見てそうも思った。ここでふと疑問が湧いた。何故晶はこんな中途半端な時期に転校してきたのだろうか?進級の来年度からの方がきっぱりしていて良いと思うけど…まぁいろいろとあるんだろうけどなぁ…

その日学校にいる間は晶とは話さなかった。一言も。晶は頭が良いらしい。ぼくもそうだが晶と話してしまえば周りにボロがでる可能性がある。晶はそれを理解しているらしかった。ぼくは少し嬉しかった。今までそんな風に気を使ってくれる友達なんていなかったし、そもそも友達と呼べる人もいたかどうかだったし…。でもそうなってしまったのは………

ぼくは考えるのをやめた。記憶がよみがえらないうちに。

学校からの帰り道ぼくは三角公園に寄り道をした。最近はよくここに来る。ブランコを乗っていると晶が来た。晶も学校帰りらしい…ぼくを見つけると笑顔になって走ってきた。ニコッとえくぼを見せつけてぼくの隣のブランコに座った。

「よっ!」

「どうも…」

「和磨くん素っ気ないですねぇ」悪戯っぽく笑う君…。

「そんなことないよ」

ぼくはなんとなくいつもの癖で笑顔を作った。晶は怪訝(けげん)そうにぼくの顔をのぞきこむ…

「和磨…私の前では無理なんてしなくて良いからね?」

晶はすぐにぼくの仮面を見破った。

それでも晶はいてくれるから…いなくなりはしないから…だからぼくはすぐに偽りをやめることができた。

晶を見ていて気づいた。そういえばいつの間にか蓋が開いてる。ぼくは(かたく)なに拒んでいた蓋を晶の前では自分から開けられることに気づいた。

「…気遣ってくれてありがとう…」

また自然に言葉が出た。

「ぼくのことも頼ってくれて良いから…」

そう言ったぼくを見て晶は少し戸惑ったように見えた。有り難う と一言言うと晶は話題を変えた。

「ねぇ…この町に図書館ないの?」

「あるよ。ぼくらの家のすぐ裏だよ」

ぼくは晶の戸惑いを気にもとめなかった。

「へぇ…知らなかった」

「まぁ他の町のと比べると小っちゃいし人もあんまり来ないからね」

「ふぅん…」

「晶興味あるの?」

「うん。私本好きなの」

「小説とか?」

「ううん。絵本を読みたくて…」

ぼくは驚いた。もう三年生になるのに未だに絵本を読みたいとか…ありえない。

「晶って…意外と子供っぽいのな。なんか思ってたのと違うんだけど…」

ぼくは少し見下したように言ってしまった。第一ぼくは子供っぽいのが好きじゃない。上へ上へと進まないといけない理由が母さんとぼくの中にあったから…。

「和磨ってひどいんだね」

「…えっ?」

今度はぼくが戸惑った。晶は少し怒ってるらしい。

「なんで怒ってんの?」

ぼくはなんで晶が怒っているのかまるで理解できない。晶は、はぁ…とため息をついた。

「和磨…そういうのなんて言うか分かる?」

「…」

「『偏見』って言うんだよ」

「偏見?」

「そう、偏見…かたよった見方をするっていうことだよ」

「かたよった見方?」

「和磨は私が絵本を好きなの馬鹿にしたでしょ?それは和磨の基準で考えているだけで私の基準とは異なるの」

「…」

「十人十色ってことわざがあるんだけど本当にそうで十人いれば十通りの考え方や価値観の違いがあるの」

「だから見下すのはやめなよ…ね?」

晶は怒りつつも優しく丁寧に教えてくれた。それを聞いていてぼくは思った。…それじゃあぼくも母さんと似たり寄ったりじゃないか…

ぼくは自分を恥じた。でもそれ以上に自分の非を認めたくないぼくがいた…そして正論を他人に言われたことに腹が立った…

「なんか…苛つく」

「…え?」

「晶って綺麗ごと言うの上手いんだな」

「綺麗ごとじゃないよ…事実を言っただけだよ」

また正論。

「今日は帰るわ」

ぼくは公園を後にした。この時は何に苛ついていたかよく分かんなかった。多分、今まで偽りでいた分否定されたこと少なかったからだと思う…。

家に帰ると自分のベットに倒れ込んだ。

苛つく…晶も苛つくけど…こんな自分にも腹が立つ…なんで認めたくなかったんだろ…晶は悪くないのに傷つけてしまったかもなぁ…

とにかく全てに苛ついていた。ぼくはベットの片隅にあるティッシュ箱を投げ飛ばした。

…その日の真夜中ぼくは部屋をこっそり抜け出して三角公園へ向かった…手が震える寒さだったけどそこに行きたかった。どうしてもそこへいきたかった。公園に着くと誰もいるはずのないブランコに人影が見えた…

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