第六章 開いた
ぼくは一通り泣いた後空を見あげた。雲一つない空が蒼々と広がっていた…。
なんで晶はぼくの気持ちに気づいたのだろう…。ぼくの胸になにか引っかかる物を感じた。
「ねぇ…」
「なに?」
晶がぼくに再び話しかてきた。ぼくは晶に視線をやる。
「人ってね、見えないところでつながっているんだよ。」
「……。」
あまりにも唐突な晶の言葉にぼくは理解できなかった。晶はブランコから静かに降りてぼくに振り返る。さっきまでは晶のことが憎くて憎くてたまらなかったのに…。なぜか晶が可愛く見えた…。
「風を伝って、海を渡って、土を歩いて、空を見上げて…」
なんだろう…。よく意味が理解できないのに何故か晶の言葉がぼくを切なくする。晶の長いその髪はぼくの心を優しく撫でた。時折風が晶の髪に笑いかける。
「ぼく…よく分かんない。」
ぼくの口から自然に言葉が漏れた。今までは相手のほしい言葉を…偽りの自分を演じていたのに…。そうやって自分を守ってきたのに…どうして…?どうして自分で自分の盾を壊すんだ?
「フフッ…。今に分かるわ…。」
晶は良く分からない笑みを浮かべた。哀しそうな嬉しそうな…。実際は分からない。けどそんな気がした。
だってぼくはもう…もう?…
「もう」
って何だろう。自分に問いかける。
「ねぇ空をもう一度見てよ…」
晶は空を見上げた。ぼくもこの気持ちに名をつけれぬまま空を見上げる。
「ねっ。私たち空に包まれているでしょう?」
「えっ?」
「だぁかぁら、私たち同じモノに触れられているでしょ?」
ふふっ…と晶は笑いながら瞼をとじた。
「風は私に当たってあなたに当たる」
「此処が例えば海ならば、海は波を使ってあなたにあたる…その波は私にあなたの感触を運んでくれる」
「土はあなたの歩いた証を使って私の証と遭わせてくれる」
「……。」
「よく分かんないよ…。」
ぼくは何故かまた泣きそうだ…。晶がほほえみながら何かをぼくに悟す。ぼくの蓋のテープがちぎれていく…
「つまりね!」
「つまり?」
ぼくは聞き返す。
ビリビリビリッ…
何十にも巻かれたテープがどんどん引きちぎられていく…。蓋は今にも開きそうだ。
言って…その先を…早く……
「君はひとりじゃないんだよ…」
ふわぁー……
ぼくの心の中で純白の羽が舞った…。緑の大海原が広がる…。蓋が開いた…
「君は君で良いいんだよ…」
ぼくの眼から一筋の雫が流れ出た。あとからあとから…もう止まんない…。
「あ…きら…」
「また泣いちゃって…なに?」
「あり…ありが…ありがとう…」
ぼくは泣きじゃくった。泣きじゃくって顔をくしゃくしゃにしながら晶に疑問をぶつけた…
「な…なんで…ぼっ…ぼくの…仮面を…みっ…見破った…の?」
涙でにじんで見えなかったけどたぶん晶は苦笑いだった…。
「あなたは…和磨は私と似てたから…。」
「えっ?」
「あなたの瞳が私のと似てたから…」
「もしかして…」
ぼくは泣くのをやめてしまった…。晶は寂しそうに頷く。
「それじゃあ…晶も…?」
ぼくらは、二人ともずっと
「偽り」
を過ごしてきたのだった。今までずっと明るかった晶の顔が寂しそうな少女の顔へと変化していく…
「晶も泣いちゃえよ…」
自然とまた言葉が出た…。泣かさせてあげたい…
「ふぅ…ふぅえぇ…ん」
晶の大きな瞳から大粒の涙がこぼれた…。
晶もいろいろと無理してたんだな…。
ぼくはなんとなく晶を抱きしめた。柄にもなく…ただ抱きしめた。体が勝手に動いたんだよ。ぼくじゃなくて体が…
抱きしめながらぼくも泣いた…。蓋は開いたんだ。あとは…あとはなにをしたら…。
ぼくは蓋の中にまだ箱が残っているのを見つけた。鍵がついてる…この鍵はどこにあるんだろう…。
ぼくは晶の心情を勝手にぼくと同じだと…まったく全て同じなんだと決めつけてた…。
馬鹿な自分…君が求めていたのはそんなものじゃなかったのにね…。今、隣のブランコは誰もいないよ。風が虚しく揺らすだけ…ただそれだけ…。