第一章 和磨
ぼくは今になって後悔した。
あのときなぜもっと知りたいと願わなかったのか。なぜ君のSOSを見逃してしまったのか…。
ぼくは子供だった。
時は13年前の春。ぼくの名前は坂下和磨。ぼくはまだ小学2年生だった。その日は暦では春だったが、まだ肌寒さが残り、雪も少し溶け残っていた。しかし雲の切れ目から太陽の光が射していて、植物達は皆生き生きしていた。なのに…なのにぼくの気分は最悪だった。それにはある理由が…。
ブロロロ…ー車の音がする。
「こっちでいいのか?」
「はやくもて!」
「バカ!そっちじゃない!!」
休日の朝なのにやけに騒がしい。ぼくは布団の隙間から時計を見た。もう朝の九時だ。ぼくは昨日ミニバスケットクラブの試合があって、それで一夜開けた今日でもひどく疲れていた。体の通信機関が故障したみたいだ。その試合結果は27-62のボロ負け。ぼくの初試合だったから昨日はずっと泣いていた。うっ…思い出したらまた泣いてしまいそうだ…。
傷心に浸るのも束の間で、もっと嫌なことを思い出した。
そうだ…今日は
「おとなりさん」
が来る。
つまり隣に越してくる家族がいるのだ。
ぼくは当時アパートの一階に住んでいた。前の家はぼくの母さんと父方の祖母との仲が猿と犬並に悪くて、仕方なく父さんは祖父母に家をゆずりここに引っ越すことに決めた。ぼくは
「おとなりさん」
に来てほしくない理由があった…。そしてこの出会いがぼくの人生を大きく狂わせることになろうとはまだ誰も知らない…。