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私めが悪役令嬢の爺でございます  作者: 雫石しま


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第一話 悪役令嬢になりたい

エブリスタにも掲載されています

 爺は困っております。お嬢様が「悪役令嬢になりたい」と仰って、お部屋から出て来られません。お食事もお召し上がりにならずヘソを曲げていらっしゃるようです。


「お嬢様、少しはお召し上がりにならないと、大きくなれませんよ」

「ルーベル!私はもう大人よ!」


 その通りでございます。お嬢様はもう十八歳、花も恥じらう時期はもう、いえ、ゲフンゲフン。先日からお見合いのお話もチラホラ、大人の女性でございます。それがいきなりハンガーストライキとは、これがお嬢様の仰る「悪役令嬢」というものなのでしょうか。ただの駄々っ子、いえ、ゲフンゲフン。


「お嬢様、今のお嬢様は十分、爺を困らせる「悪役令嬢」でございます」

「・・・・・本当!?」


 すると足音が近付いて来て、バン!と勢いよく扉が開いたのでございます。その勢いで爺の眼鏡にヒビが入り、鼻先は赤く腫れ上がってしまいました。これこそ「悪役令嬢」、憎き、いえ、ゲフンゲフン。


 お嬢様の名前は、オデット・ケールナー侯爵令嬢と申されます。瞳は煌めく翡翠石、腰までの絹糸のようなプラチナブロンドの髪は艶やかで、爺の自慢のお嬢様でございます。ただ、一度決めたら頑として譲らない強情な、いえ、なんでもございません。


「お嬢様、今夜は季節の野菜のポトフでございます」


 お嬢様はダイエットなるものに取り組まれ、お抱えの栄養士が作った食事を一日に四食召し上がられ、専属のジムトレーナーと毎朝ラジオ体操をなさっておられます。その効果は、ご想像にお任せします。


「いや!」

「は?」


 お嬢様は爺のまえで仁王立ちになり、その艶やかなお髪を優雅に掻き上げて微笑まれました。


「フライドチキンとポテトフライが食べたい!私はコーラが飲みたいの!」

「揚げ物、ですか?」

「そう!困るでしょう!悪役令嬢だから!」


 いえ、このような夜に、そのようなものをお召し上がりになられると、後々、困るのはお嬢様ではないでしょうか?爺はそのようなことは申し上げませんが、とりあえず料理長にフライドチキンとポテトフライを作らせました。コーラなるものは爺は存じ上げませんので、魔法の水晶でググり、八時間営業のトロルの店まで走りました。八時間営業のトロルの店は、霧深い森の奥にあり、魔法の水晶の光を頼りに爺は泥だらけの道を走ったのでございます。


「オデット様!コーラでございます!」


 爺はこんなに走ったのは久方ぶりでございます。まったく「悪役令嬢」とは厄介な、いえ、ゲフンゲフン。ところが、魔法の水晶には載っていなかったのですが、コーラなるものは振動を与えてはならなかったのです。蓋を開けた途端、ものすごい勢いで琥珀色の液体が泡となって吹き出してしまいました。


「な、なんですかこれは!」


(昔はドラゴンと戦ったものが、今となってはコーラと戦う羽目になるとは)


 プシュうううう・・・・・・


「あぁ、お嬢様!申し訳ございません!」

「いいのよ、爺、それよりもおまえの服は大丈夫だった?」


 お優しい・・・爺は涙を流してしまいました。やはり、わたくしのお嬢様は「悪役令嬢」にはなれないのでございます。するとお嬢様はどこからか扇子を取り出し高笑いをなされたのです。その豹変ぶりに、爺はお嬢様がお気が触れ、いえ、なんでもございません。


「ほら!爺が泣いているわ!」

「は?」

「私が「悪役令嬢」だから泣いてしまったのね!かわいそうに!ザマァミロだわ!」


 いえ、お可哀想なのはお嬢様のオツムで、いや、もうなにも言うまい。


「お嬢さまは立派な「悪役令嬢」でございます」

「そうでしょう!?ほーほほほほ」


 さて、フライドチキンとポテトフライが届きました。ごゆるりとお召し上がり下さい。あぁ、かつて魔王の炎をくぐり抜けたこの手が、今は油まみれの鶏を運ぶのか・・・ゲフンゲフン。


「爺、欲しい?」


 お嬢様はポテトフライを差し出し、口元を歪めて小さく笑われました。そして、ほらほら!と言わんばかりに爺の顔になすり付けるのです。


「では、一本だけ」


 爺が指を伸ばすと、お嬢様は、あーげない!と手を引っ込められました。爺の指先は行き場をなくして宙を彷徨いました。


「お嬢様、これが「悪役令嬢」なるものですか?」

「そうよ!悲しいでしょう!?ふぁーっははは!これで私の勝利よ!」


 お嬢様、これが勝利とは・・・ただのジャンクフードを召し上がっているだけではございませんか。本当にこれが「悪役令嬢」なのでしょうか?そしてこのおふざけは明日も続くのでしょうか?お嬢様の笑顔のためなら、爺はどんな無茶ぶりも耐えるしかありません。爺は日が暮れる窓を眺め、大きな溜め息をついてしまいました。

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