第7話
立てこもり二日目、午後四時三十分。
沈みゆく太陽が、雪原をどす黒い赤に染め上げていた。
「……掃討だと? 笑わせるな。国家の飼い犬どもに、死の味を教えてやる」
真壁の声が山荘内に響く。彼はもはやあくびをしてはいなかった。
「成瀬、お前も来い。理屈じゃなく、血でしか証明できない『革命』があるんだよ」
杉本が止める間もなかった。
真壁率いる精鋭三名と、狂ったように瞳をぎらつかせた成瀬が、山荘の裏口から猛吹雪の中へと躍り出た。
「やめろ……! 成瀬さん、戻ってくれ!」
杉本の叫びは、すぐに銃声にかき消された。
山荘の二階からスコープを覗く杉本の目に、信じがたい光景が飛び込んでくる。
雪原を、白のギリースーツを纏った真壁たちが、まるで幻影のように滑っていく。機動隊側は「子供」という盾があるために迂闊に撃てない。その逡巡を、真壁は見逃さなかった。
タタタタタンッ――!
真壁のサブマシンガンが、最前線の防壁をなぎ払う。
そして、成瀬だ。彼はかつて平和を説いたその口を歪め、絶叫しながら自動小銃を乱射した。
「あああああ! 死ね! 国家の奴隷どもが!」
成瀬の放った弾丸が、盾の隙間を縫って機動隊員の喉を貫く。一人、また一人。
夕闇の雪原に、鮮やかな赤のしぶきが舞った。
真壁の部隊は、驚異的な連携で包囲網の一角を壊滅させた。わずか数分の間に、五人の隊員が物言わぬ肉塊へと変わり、雪の中に沈んでいく。
和也の指揮車が、激しい怒りに震えるようにサイレンを鳴らした。だが、真壁たちは追撃を許さぬ速さで、再び山荘の闇の中へと消え去った。
「ハハッ……ハハハハハ!」
山荘に戻ってきた成瀬は、膝をつき、血に汚れた手で顔を覆った。
「杉本……やったぞ。僕の手で、敵を……浄化したんだ」
「成瀬さん……あなたは、何を……」
成瀬の顔は、返り血で赤く染まり、その表情は幼児のような残酷な無垢さに満ちていた。
その背後で、真壁は無造作にマガジンを交換しながら、二階を見上げた。
「おい、杉本。お前の友達の顔を見てみろ。今、最高にいいツラをしてるはずだぜ」
杉本が再びスコープを覗くと、指揮車の外に立ち、五体の遺体を見下ろす和也の姿があった。
和也は、叫ばなかった。
ただ、震える手で無線機を握りしめ、山荘を見つめていた。その瞳から、最後の「慈悲」という名の光が完全に消えるのを、杉本は見た。
「……こちら島田(和也)。本庁へ伝達」
和也の声は、ミチルのマイクを通じて山荘内にも漏れ聞こえてきた。
「目標地点への『焼却処分』を開始する。……繰り返す、生存者の確認は不要。一匹残らず、焼き尽くせ」
山の麓から、これまでとは比較にならない数のエンジンの咆哮が聞こえ始めた。
日没と共に、本当の地獄が幕を開ける。




