表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
叛逆の照準 ―国家に撃たれる子供たちを、僕はまだ救えない―』  作者: 水前寺鯉太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/10

第2話

山荘の窓ガラスが、一発の銃声に震えた。

杉本が放った弾丸は、突撃する中学生の頭上、わずか数センチをかすめ、後方の凍った泥を弾いた。威嚇――。だが、それは一時的な猶予に過ぎない。

「……なぜだ」

杉本はライフルを構え直しながら、吐き捨てるように呟いた。

スコープ越しに見える中学生たちは、全員が同じ、薄汚れたジャージ姿だった。その胸元には、本来なら名札があるはずの場所に、白い布で「認識番号」が縫い付けられている。

彼らがここにいる理由は、半年前の国会で強行採決された**『青少年健全育成・国防転用臨時措置法』**にある。

公式な大義名分はこうだ。

「増え続ける少年犯罪と、深刻な国防の人手不足を解消するため、非行予備軍および思想的汚染の懸念がある学生に対し、実戦を通じた『矯正教育』を施す」

だが、現実は違った。

この山荘を包囲している「機動隊・特別選抜部隊」の指揮官、島田和也は、かつて杉本にこう語ったことがあった。

『杉本、今の若者は潔癖すぎる。平和という幻想の中で、命の重さを知らない。だから、国家が「痛み」を教え込む必要があるんだ』

あの時の和也の目は、まだ冗談を言っているようだった。

しかし今、和也が指揮を執る「督戦部隊」は、その理論を最悪の形で体現している。

「前へ出ろ! 302番、415番! 止まれば射殺する!」

和也の声がスピーカーを通して山に響く。

中学生の一人、302番と呼ばれた痩せこけた少年が、雪に足を取られて転倒した。抱えていた古い64式小銃が雪に埋まる。少年はパニックに陥り、山荘ではなく、自分を追い立てる和也たちの列へと這って戻ろうとした。

「……くるな、来るんじゃない!」

少年の叫びは、冷酷な一撃にかき消された。

和也の隣に立つ隊員が、少年の足元に警告射撃を見舞ったのだ。

「戻ることは許されない。君たちは今、『教育』の最中だ。敵を殺すか、敵に殺されるか。それ以外に卒業の道はない」

和也の言葉は、氷のように透き通っていた。

彼は知っているのだ。テロリスト――杉本たちが、子供を撃てないことを。

もし杉本たちが子供を撃てば、彼らの掲げる「弱者のための革命」という大義は、その瞬間にただの「児童虐殺」に成り下がる。

逆に、撃たずに子供たちの侵入を許せば、山荘は内側から瓦解する。

「汚い……どこまで汚いんだ、和也」

杉本の指が、寒さではなく怒りで震える。

この「戦争」は、最初から詰んでいた。国家は、子供の命というチップを使って、杉本たちの「良心」を磨り潰しに来ているのだ。

「杉本、何をしている! 撃てと言っているだろう!」

背後で成瀬が叫ぶ。彼はすでに正気を失いつつあった。

「あのガキどもはもう、国家の犬だ! 撃たないなら、俺が貴様を総括する!」

成瀬が拳銃の銃口を杉本のこめかみに押し当てる。

窓の外では、泣き叫ぶ少年が再び立ち上がり、震える手で銃を山荘に向けようとしていた。

スコープの向こう、雪煙に霞む指揮官の影。

和也は、あえて防弾バイザーを上げていた。

彼は、杉本が見ていることを知っている。

そして、無言でこう告げていた。

――選べ、杉本。理想のために子供を殺すか。子供のために理想を捨てて死ぬか。

「……和也、お前が始めたんだな。この地獄を」

杉本は、再びトリガーに指をかけた。

今度は威嚇ではない。

誰かを、殺さなければならない。

その一発が、中学生の胸を貫くのか。成瀬の脳漿をぶちまけるのか。

あるいは、あの懐かしい、かつての友の心臓を射抜くのか。

杉本の視界は、溢れ出した涙で白く濁っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ