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叛逆の照準 ―国家に撃たれる子供たちを、僕はまだ救えない―』  作者: 水前寺鯉太郎


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10/10

第10話

立てこもり三日目、午後八時。

暗闇に包まれた雪原は、機動隊の照明弾によって、昼間よりも忌々しい白さに照らし出されていた。

「……行け。お前たちの『卒業式』だ」

真壁の冷酷な声が響く。

山荘の裏口から押し出されたのは、銃を持たされた阿久津たち、数人の中学生の生き残りだった。彼らの背中には、真壁の手によって爆薬が括り付けられている。

「待ってくれ! 阿久津! 戻れ!」

杉本の叫びは、夜の風に霧散した。

阿久津は、もはや恐怖さえ超越した、虚ろな目で杉本を一瞥した。

「……あんたの理想なんて、どうでもよかったよ。……でも、あいつら(国家)を許すのはもっと嫌だ」

少年たちは、雪を蹴り、機動隊の陣地へと突撃を開始した。

『撃つな! 中学生だ! 撃つなッ!』

和也の狂ったような叫びが響く。だが、前線の隊員たちに迷いはなかった。闇の中から自分たちに向かって銃を乱射し、爆弾を背負って突っ込んでくる影。それは、彼らにとっては「排除すべき敵」以外の何物でもない。

一斉射撃。

夜の静寂を、数えきれないほどの銃声が埋め尽くした。

阿久津の身体が、空中で踊るように跳ね、雪原に沈んだ。次々と崩れ落ちる小さな影。最後の一人が力尽きたとき、雪原は再び静寂に包まれた。

数分後。

返り血で真っ黒に染まった真壁と過激派の残党が、嘲笑を浮かべながら山荘へ戻ってきた。

「見たか、杉本。和也の顔を拝ませてやりたかったぜ。あいつ、自分の教え子を肉片に変えた気分はどうなんだろうな」

真壁は、安物のウイスキーを口に含み、それを床に転がっていた成瀬の死体に吹きかけた。

「さあ、仕上げだ。山荘ごと焼き払って、俺たちは裏から消えるぞ」

その時だった。

「……真壁」

杉本が、ゆっくりと立ち上がった。

その手には、三日間握り続けたライフルではない。成瀬が大切にしていた、音楽のレコードの破片があった。

「なんだ、杉本。まだ何かに絶望して――」

真壁の言葉は、杉本の引き金によって遮られた。

杉本は、自分のこめかみに銃口を突きつけていた真壁の部下から奪った拳銃を、迷わず真壁の胸へと放った。

一発。二発。

「……が、ふっ……」

真壁が、驚愕の表情で崩れ落ちる。杉本は、涙さえ流していなかった。

「……君が言ったんだ、真壁さん。血でしか証明できないものがあるって。……これは、僕の責任だ」

炎が山荘に回り始めた。

真壁の部下たちは逃げ出し、崩れゆく壁の向こうから、一人の男が歩いてきた。

島田和也だ。防弾ベストは引き裂かれ、銃を捨て、ただ幽霊のように炎の中を歩いてくる。

二人は、燃え盛るホールの中心で向き合った。

「和也」

「……杉本」

和也の瞳には、もう何も映っていない。

「……終わったよ。誰も、いなくなった。……僕たちが守りたかった世界も、僕たちが愛した音楽も、全部、あの雪の中に埋まった」

和也は、懐から一枚の古びた写真を取り出した。大学時代の、二人の笑顔。

それを炎の中に放り込み、彼は杉本の前に跪いた。

「撃てよ、杉本。……僕を、殺してくれ。……督戦兵の最後には、それが必要だ」

杉本は、和也の額に銃口を当てた。

外では、機動隊の突入部隊が、勝利の雄叫びを上げながら山荘を包囲している。

だが、この炎の中だけは、かつて二人が共有した静かなアパートのようだった。

「……和也。……第九を、覚えてるか」

杉本が、そっとトリガーに指をかける。

炎の爆ぜる音が、まるで歓喜の歌のフィナーレのように、激しく鳴り響いた。

雪深い山荘。

翌朝、そこには炭化した残骸と、寄り添うようにして死んでいた二人の男、そして、吊るされたまま凍りついた少女の遺体だけが残されていた。

空は、どこまでも高く、残酷なまでに青く澄み渡っていた。

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