第三章 第四節 第十話 封鎖地区の奥
再び封鎖地区へ向かうことが、
決まった。
準備に、
時間はかからなかった。
迷いは、
もうなかった。
原因は、
あの奥にある。
火脈会の間を出ると、
外の空気は冷えていた。
鋼守が、
前を歩く。
火守。
鉱守。
古炉守。
そして、
ライナス達。
誰も、
無駄な言葉を発さない。
封鎖地区の境界を越える。
焼けた石。
崩れた炉。
止まった工房。
すべてが、
過去のままだった。
だが。
奥へ進むほど、
違和感が強まる。
静かすぎる。
生き物の気配が、
ない。
風の音だけが、
通り抜ける。
ドゥリアが、
小さく呟いた。
「……いる」
ライナスが、
視線を向ける。
「分かるのか」
ドゥリアは、
頷いた。
「ゴーレムの声が、
聞こえない」
矛盾した言葉。
だが、
意味は伝わった。
本来なら、
感じられるはずのものがない。
空白。
それが、
異常だった。
進む。
瓦礫の向こう。
崩れた工房の奥。
そこに、
人影があった。
背を向けて、
立っている。
動かない。
鋼守が、
低く言った。
「……誰だ」
影が、
ゆっくりと振り向く。
ドゥリアの呼吸が、
止まった。
「……兄さん」
男は、
静かに笑った。
「久しぶりだな、
ドゥリア」
声は、
落ち着いていた。
狂気は、
ない。
むしろ、
穏やかだった。
ライナスが、
前へ出る。
「お前が、
やっているのか」
男は、
否定しない。
「研究だ」
短い答え。
リシアが、
鋭く言う。
「職人を、
使って?」
男は、
視線を向けた。
否定も、
肯定もしない。
だが。
沈黙が、
答えだった。
ドゥリアが、
震える声で言う。
「……どうして」
男は、
彼女を見る。
優しい目だった。
「守るためだ」
「お前を」
その言葉に、
ドゥリアの目が揺れる。
「力が、
必要だった」
「失わないための、
力が」
ライナスは、
男を見る。
歪みは、
ない。
だが。
正常でも、
なかった。
「魔王様が、
教えてくださった」
静かな声。
「力がなければ、
守れないと」
「両親は、
力がなかった」
「だから、
簡単に死んだ」
ドゥリアの瞳が、
大きく揺れる。
男は、
続けた。
「俺が求める力は、
間違っていないと」
「誰よりも、
才能があると」
「魔王様が、
認めてくださった」
ネレウスが、
わずかに構えた。
男は、
気にしない。
「証明してやる」
そのとき。
背後の瓦礫が、
動いた。
現れる。
巨大な、
ゴーレム。
今までのものとは、
明らかに違う。
密度。
圧力。
存在感。
空気が、
重くなる。
男が、
誇らしげに言った。
「三人分の力を、
ひとつにした」
「特別製だ」
ドゥリアの顔が、
青ざめる。
男は、
続ける。
「まだ未完成だが」
「この技術で、
俺は英雄グラン=バルドを超える」
静かな、
確信だった。
ライナスが、
剣を構える。
ネレウスも、
並ぶ。
リシアが、
魔力を練る。
ドゥリアは、
動けない。
男は、
一歩下がる。
「見せてくれ」
「お前達の力を」
命令では、
なかった。
観察だった。
次の瞬間。
ゴーレムが、
動いた。
地面が、
砕ける。
戦いが、
始まった。




