第三章 第四節 第九話 持ち帰られた証拠
封鎖地区へ向かう決定は、
静かに下された。
誰も反対はしなかった。
理由は明白だった。
このままでは、
失踪は止まらない。
原因は、
あの奥にある。
火脈会の間を出た後、
一行はすぐに準備を整えた。
案内を務めるのは、
鋼守だった。
無言のまま、
先頭を歩く。
後ろを、
ライナス達が続いた。
ドゥリアは、
最後尾にいた。
表情は、
硬い。
だが、
足取りは止まらない。
石段を下り、
炉の音が遠ざかる。
やがて、
封鎖地区の境界が見えた。
黒く焼けた石壁。
崩れた工房。
時間が、
止まったような場所だった。
「……ここから先だ」
鋼守が言う。
全員が、
武器に手をかける。
空気が、
重い。
進む。
足音だけが、
響く。
そのとき。
――動いた。
瓦礫の奥。
岩陰から、
それは現れた。
ゴーレム。
前回と、
同じ。
だが、
今度は一体だけだった。
ゆっくりと、
こちらを見る。
目はない。
だが、
見られていると分かる。
「来るぞ」
ライナスが言った。
次の瞬間、
ゴーレムが踏み込む。
速い。
地面が、
砕ける。
ライナスが前へ出る。
剣を振るう。
金属音。
だが、
止まらない。
ネレウスが、
横から斬り込む。
関節。
狙いは、
正確だった。
一瞬、
動きが止まる。
「今だ!」
ライナスが、
踏み込む。
全身の力を、
剣に乗せる。
振り抜く。
深く、
入った。
ゴーレムの動きが、
鈍る。
リシアが、
魔力を放つ。
衝撃。
ひびが、
広がる。
ドゥリアが、
低く言った。
「……ごめん」
誰に向けた言葉かは、
分からなかった。
ゴーレムの膝が、
崩れる。
ライナスが、
最後の一撃を放った。
中枢を断つ。
沈黙。
動きが、
止まった。
完全に。
誰も、
すぐには動かなかった。
やがて。
「……止まった」
ネレウスが、
確認する。
ライナスは、
剣を下ろした。
息を吐く。
「持ち帰る」
鋼守が、
言った。
驚きは、
なかった。
必要なことだと、
全員が理解していた。
数人がかりで、
運ぶ。
重い。
ただの金属では、
ない。
何かが、
詰まっている。
火脈会の間へ戻った頃には、
全員の額に汗が浮かんでいた。
中央へ、
横たえる。
火守が、
前へ出た。
鉱守も、
続く。
古炉守は、
少し離れて見ていた。
調査が、
始まる。
外装を、
確認する。
内部へ、
触れる。
長い、
沈黙。
やがて。
鉱守の手が、
止まった。
「……これは」
声が、
震えていた。
火守が、
覗き込む。
沈黙。
誰も、
言葉を発しない。
鋼守が、
低く言った。
「言え」
鉱守は、
答えない。
代わりに、
火守が言った。
「……いる」
短い言葉。
だが、
十分だった。
ライナスの背に、
冷たいものが走る。
「中に、
人がいる」
ドゥリアが、
息を呑む。
リシアが、
一歩近づく。
「……生きてるの?」
誰も、
答えない。
火守が、
静かに首を振る。
「違う」
「これは、
もう人ではない」
沈黙。
重い。
鉱守が、
続けた。
「融合している」
「構造の一部として、
組み込まれている」
ネレウスが、
低く言う。
「……魂鋳か」
火守は、
否定しない。
ドゥリアの手が、
震えていた。
ライナスは、
ゴーレムを見る。
そのとき。
気付いた。
内部の奥。
微かに、
光るもの。
紫。
小さい。
だが、
確かにあった。
「……紫結晶」
リシアも、
気付いた。
「間違いない」
「魚人の国で見たものと、
同じ」
鋼守が、
顔を上げる。
「知っているのか」
ライナスは、
頷いた。
「精神を歪めるものです」
「触れた者の、
内側を変える」
沈黙。
すべてが、
繋がるわけではない。
だが。
嫌な予感が、
形を持ち始めていた。
火守が、
ゆっくりと言う。
「原因を断たねば、
終わらん」
誰も、
否定しなかった。
鋼守が、
ライナスを見る。
「奥へ行く」
それは、
確認だった。
ライナスは、
頷いた。
ドゥリアも、
顔を上げる。
目は、
もう揺れていなかった。
覚悟が、
あった。
古炉守が、
静かに言う。
「……ならば、
我らも同行する」
炎が、
揺れる。
すべては、
まだ終わっていない。
むしろ。
ここからが、
始まりだった。




