第三章 第四節 第七話 禁忌の名
炎が、
静かに揺れていた。
封印された工房から戻ってきた後も、
誰も言葉を発しなかった。
火脈会の間。
中央の炉は、
変わらず燃えている。
だがその炎は、
先ほどまでとは違って見えた。
古炉守が言った。
――確認する必要がある。
その意味を、
誰もまだ知らない。
だが。
知らねばならないことだけは、
理解していた。
やがて。
古炉守が、
ゆっくりと口を開いた。
「……あの工房にあったものは」
言葉を、
選ぶように止める。
「存在してはならぬ技術の記録だ」
リシアが、
静かに問う。
「技術……?」
古炉守は、
小さく頷いた。
「ゴーレムを造る技術は、
この国の根幹だ」
「だが」
視線が、
炉の奥へ落ちる。
「かつて」
その声は、
わずかに低くなった。
「勇者と共に戦ったドワーフの英雄、
グラン=バルドがいた」
炎が、
揺れる。
「英雄は、
大切な存在を奪われた」
「その喪失の果てに」
「復讐のため、
新たな技術を生み出した」
言葉は、
静かだった。
だが。
重かった。
鋼守が、
続ける。
「通常のゴーレムは、
操縦者の意思で動く」
「魔力を通じて、
命令を伝える」
鉱守が、
静かに言う。
「だが」
「意思を伝えるだけでは、
限界がある」
「反応には遅れが生まれる」
「完全に一体では、
ないからだ」
ライナスは、
理解し始めていた。
より深く繋がる。
その意味を。
古炉守が、
言う。
「ならば」
炎が、
揺れる。
「同じ存在になればよい」
その言葉は、
静かだった。
だが。
重かった。
ネレウスが、
わずかに眉をひそめる。
「……同じ存在?」
古炉守は、
頷いた。
「肉体と」
「魂を」
「構造へ組み込む」
空気が、
凍る。
誰も、
すぐには理解できなかった。
理解したくなかった。
リシアが、
低く言う。
「……それは」
古炉守が、
答える。
「禁忌だ」
はっきりと。
その言葉が、
落ちた。
炉の炎が、
わずかに揺れる。
「同化が深いほど、
力は強くなる」
鋼守が、
続ける。
「だが」
「戻ることは、
できぬ」
沈黙。
それは技術ではない。
生け贄だった。
ドゥリアの手が、
わずかに震える。
古炉守は、
彼女を見なかった。
見てしまえば、
止められなくなるからだ。
ライナスが、
静かに問う。
「その技術は、
どうなったのですか」
古炉守は、
炎を見つめたまま答えた。
「グラン=バルド自身が、
封印した」
炎が、
わずかに揺れる。
「己の手で生み出し、
己の手で封じた」
「二度と使われぬよう」
「誰も触れぬよう」
言葉が、
止まる。
そして。
続けた。
「だが」
炎が、
揺れる。
「封印は、
破られた」
空気が、
変わる。
鋼守が、
低く言う。
「封印構造に、
侵入の痕跡があった」
「我らが開いたものではない」
鉱守が、
続ける。
「内部の記録も、
一部が失われている」
それが意味するものは、
ひとつだった。
誰かが。
禁忌を持ち出した。
沈黙。
古炉守が、
静かに言った。
「可能な者は、
限られている」
その言葉は、
名前を出さなかった。
だが。
火脈会全員が、
同じ人物を思い浮かべていた。
ドゥリアの呼吸が、
わずかに乱れる。
炎が、
揺れる。
それはまるで。
過去が、
動き始めたかのようだった。
禁じられたものは、
すでに外へ出ている。
そして。
それは、
止まっていない。




