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ガイア戦記 ― 歪められた世界の選択  作者: マロン
第三章 疑念の世界

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第三章 第四節 第五話 封じられた工房

炉の間を出たあとも、

しばらく誰も口を開かなかった。


石の通路には、

炉の鼓動だけが響いている。


重く、規則的な音だった。


先頭を歩くのは、古炉守だった。

小さな背中だが、迷いはない。


火守も、鉱守も、鋼守も、

何も言わずに後に続いている。


ドゥリアは、

ライナスの少し後ろを歩いていた。


視線は落ちたまま。

表情は見えない。


やがて古炉守が、

足を止めた。


「……こちらだ」


短い言葉だった。


そこは、

都市の中心から外れた区域だった。


炉の熱は、

ほとんど届かない。


石の色も、

どこか古い。


使われなくなって、

長い時間が経っているのが分かる。


「ここは……」


ドゥリアが、

小さく呟いた。


古炉守は、

振り返らない。


「かつての工房区画だ」


それだけを言った。


周囲には、

崩れた建物が並んでいる。


炉は冷え、

道具は錆びていた。


人の気配は、

ない。


風だけが、

石の隙間を抜けていく。


ライナスは、

周囲を見渡した。


胸の奥に、

わずかな違和感がある。


理由は、

分からない。


だが。


何かが、

残っている気がした。


古炉守が、

一つの建物の前で止まる。


他の建物と、

変わらない外見だった。


だが、

扉には封印の刻印が刻まれている。


古い、

ドワーフの文字だった。


鋼守が、

低く言った。


「ここは、

火脈会が封じた場所だ」


ドゥリアの肩が、

わずかに動く。


古炉守が、

ゆっくりと扉へ手をかけた。


「本来、

開くことはない」


声は静かだった。


「だが――」


一度、

言葉を止める。


「今は、

例外だ」


刻印に手を触れる。


淡い光が、

一瞬だけ浮かんだ。


重い音を立てて、

扉が開く。


中は、

暗かった。


古い炉が一つ。

作業台が一つ。


それだけの、

小さな工房だった。


埃が、

静かに積もっている。


長い間、

誰も入っていない。


だが。


完全に、

止まっているわけではなかった。


ライナスは、

一歩中へ入る。


空気が、

違う。


冷たい。


それでいて、

わずかに重い。


ネレウスも、

ゆっくりと続く。


「……ここは」


古炉守が、

答える。


「勇者と共に戦った、

我らの英雄の工房だ」


沈黙が落ちる。


フィリアが、

息を呑む。


ドゥリアは、

動かない。


ただ、

見ている。


古炉守は、

炉の前へ歩いた。


その炉は、

完全に冷えている。


炎の気配は、

ない。


「この工房は、

戦いのあと封じられた」


古炉守の声は、

低かった。


「理由は、

一つ」


振り返る。


「残された技術が、

禁忌だったからだ」


その言葉に、

空気が変わる。


ライナスは、

何も言わない。


ただ、

聞いている。


古炉守が、

作業台に触れる。


埃が、

わずかに舞う。


「魂を、

構造に繋ぐ技術」


静かな声。


「肉体と魂を、

鋳込む技術」


ドゥリアの指が、

わずかに震えた。


古炉守は、

続ける。


「同調が深まるほど、

力は増す」


「だが――」


言葉を止める。


「それは、

戻らぬ道でもある」


沈黙。


炉の冷たさが、

空気に満ちている。


ライナスの脳裏に、

光景が浮かんだ。


あの時の、

光。


ゴーレムが、

輝いた瞬間。


「……」


視線を、

ドゥリアへ向ける。


彼女は、

何も言わない。


ただ、

工房を見つめていた。


古炉守が、

静かに言った。


「禁じられた理由は、

力の強さではない」


「代償の重さだ」


その声には、

長い時間があった。


外では、

風が吹いている。


だがこの中は、

止まったままだった。


過去が、

そのまま残されている。


そして今。


その過去が、

再び動こうとしている。


誰も、

口を開かなかった。


ただ、

冷えた炉だけが。


静かに、

そこにあった。

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