第三章 第四節 第三話 無人の影
封鎖地区の奥は、
静まり返っていた。
崩れた工房が、
いくつも並んでいる。
割れた石壁。
折れた梁。
冷え切った炉。
時間だけが、
ここを止めていた。
案内人が、
低く言う。
「……この先です」
「失踪者が最後に目撃されたのは」
ライナスは、
一歩進んだ。
足元の砂が、
小さく音を立てる。
ネレウスが、
周囲を見渡す。
「妙だな」
「何がだ」
ライナスが聞く。
「気配がない」
ネレウスは、
崩れた炉を見る。
「これだけ荒れているのに、
操縦者の痕跡が残っていない」
リシアも、
眉をひそめる。
「普通なら残るはずよ」
「ゴーレムを動かせば、
必ず繋がりの痕跡が出る」
フィリアが、
不安そうに言う。
「でも、
無人なんでしょ?」
リシアは、
首を振る。
「完全な無人では、
動かせない」
「何かが、
おかしい」
案内人が、
静かに続ける。
「襲撃は、
この周辺で起きています」
「ですが、
操縦者の姿は確認されていません」
そのときだった。
――ギ……
金属の擦れる音。
全員が、
振り向く。
崩れた工房の奥。
影の中で、
何かが動いた。
ゆっくりと、
姿を現す。
ゴーレムだった。
鋼の身体。
歪んだ関節。
揺れる動き。
フィリアが、
息を呑む。
「……動いてる」
ネレウスが、
剣に手をかける。
「操縦者は見えない」
リシアが、
低く言う。
「気配もない」
ゴーレムが、
こちらを見る。
空洞のはずの顔。
だが、
確かに視線を感じた。
次の瞬間、
踏み込んできた。
速い。
ライナスが、
前に出る。
剣を振るう。
鋼がぶつかる。
重い衝撃。
ネレウスが、
側面を斬る。
フィリアが、
体勢を崩す。
連携は通る。
押せる。
だが――
違和感が、
消えない。
リシアが、
呟く。
「……おかしい」
ゴーレムが、
腕を振り上げる。
ライナスが受ける。
ネレウスが斬る。
体勢が、
崩れる。
だが、
破壊できない。
ゴーレムは、
後退した。
ゆっくりと、
影の中へ戻る。
そして――
消えた。
静寂。
フィリアが、
小さく言う。
「……逃げた?」
ネレウスが、
答える。
「撤退だ」
リシアは、
影を見つめる。
「操縦者の気配は、
最後までなかった」
ライナスは、
剣を下ろす。
無人。
確かに、
無人だった。
だが――
それだけとは、
思えなかった。




