第三章 第四節 第一話 炉の国へ
翌朝、王都の空はまだ白く、
石畳には夜の冷えが残っていた。
宿の前に集まった一行は、
誰も多くを語らない。
荷はまとめてある。
「……早いね」
ドゥリアが小さく息を吐く。
「勅命だからな」
ライナスは短く返した。
王城の兵が言い残した通り、
出立は明朝。
休息は十分とは言えない。
王都の門へ向かう。
城壁の白は冷たく、
鎧の光が朝日に揺れる。
門を抜けると、
空気が変わった。
土と草の匂いが混じる。
「山道は二日だ」
ネレウスが前を見る。
「宿場が一つ。
そこから先がドワーフの領だ」
「遠いね」
フィリアが言う。
「近くはない」
リシアが淡々と返す。
「供給が滞れば、
王都は困る。
だから急がせる」
ドゥリアが肩をすくめる。
「王都って、
いつも自分のことだけだね」
「国家はそういうものよ」
リシアは否定しない。
ライナスは視線を落とす。
「だが今回は、
それだけじゃない」
「職人が消えている。
無人のゴーレムも出ている」
沈黙が落ちる。
紫結晶のことも、
魔王の名も、
ここでは口にできない。
言えないからこそ、
重い。
道は徐々に細くなる。
丘を越え、
山が近づく。
風が冷たい。
岩肌が増え、
緑が減る。
「……匂い、する」
ドゥリアが顔を上げた。
「鉄?」
フィリアが聞く。
「うん。
まだ遠いけど」
ライナスはその横顔を見る。
懐かしさは浮かんでいない。
「戻るの、
嫌?」
フィリアが小声で言う。
ドゥリアは少し考えた。
「嫌じゃない。
でも楽しくはない」
それ以上は言わない。
山道は険しくなり、
馬を降りる場面が増える。
岩を越え、
細い道を進む。
夕刻前、
小さな宿場に着いた。
石造りの建物が並び、
煙突だけが高い。
中では男たちが黙って酒を飲む。
視線が集まる。
混成の一行は目立つ。
「また誰か消えたらしい」
隣の席の声が耳に入る。
「封鎖区に近づいたとか」
「近づかなきゃ、
仕事にならん」
ドゥリアの手が止まる。
ライナスは何も言わない。
ネレウスが低く言う。
「中心は近い」
翌朝、
山はさらに険しくなる。
霧が薄く立ち、
岩の裂け目から煙が昇る。
やがて、
黒い岩肌に張り付く都市が見えた。
煙突。
鉄骨。
山を削った壁。
中央には巨大な炉。
昼間でも炎が揺れる。
「……変わらない」
ドゥリアが呟く。
門前に兵が立つ。
槌と盾。
測る視線。
「王都の一行か」
低い声が響く。
ライナスが前へ出る。
「火脈会の依頼で来た」
兵の目がドゥリアへ向く。
一瞬の沈黙。
やがて門が開く。
中へ入ると、
熱気が肌を打つ。
金槌の音が重なる。
だが、
どこか噛み合っていない。
空いた工房。
止まった仕事。
封鎖された区画。
「……減ってる」
フィリアが言う。
音が均一ではない。
視線が集まる。
外部者だからではない。
ドゥリアがいるからだ。
彼女は気づかないふりをする。
だが指先は強く握られている。
石階段を上る。
金槌の音が遠ざかり、
炉の唸りが響く。
厚い石壁。
重い鉄扉。
扉が開く。
円形の部屋。
中央に炉。
四つの席。
火守。
鉱守。
鋼守。
古炉守。
炎が揺れる。
古炉守が、
ゆっくり口を開いた。
「……来たか」
炉の火が、
わずかに強く燃え上がる。




