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ガイア戦記 ― 歪められた世界の選択  作者: マロン
第三章 疑念の世界

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第三章 第三節 第九話 玉座の前

副団長は、

ゆっくりと立ち上がった。


喉元に残る赤い線を、

指でなぞる。


血は出ていない。


だが、

その距離を忘れまいとするように。


騎士団長が、

静かに歩み寄る。


「ガルディア」


短い呼びかけ。


副団長は、

深く頭を下げた。


「……軽率でした」


「軽率ではない」


団長は、

低く言う。


「だが、

未熟だ」


副団長の拳が、

わずかに震える。


それ以上は、

何も言い返さなかった。


―――


王は、

ゆっくりとライナスへ視線を向けた。


その目は、

先ほどと同じだ。


怒りも、

喜びもない。


ただ、

見定める目。


「名は、

ライナスだったな」


「はい」


「副団長の踏み込みを、

三度目で読んだな」


問いではない。


確認だ。


「同じ軌道だった」


ライナスは、

簡潔に答える。


「重心も、

前に寄っていた」


王は、

わずかに口元を緩めた。


「剣の才か」


「違います」


即答だった。


王の側近が、

小さく息を呑む。


ライナスは、

視線を逸らさない。


「癖を見ただけです」


「強い相手ほど、

自分の形に自信がある」


「そこに、

隙がある」


副団長の目が、

一瞬だけ鋭くなる。


だが、

王が先に言葉を継いだ。


「なるほど」


それだけで、

場は再び静まった。


―――


「案内せよ」


王の一言で、

周囲の兵が一斉に動く。


中庭の奥の扉が、

ゆっくりと開かれた。


重厚な石の扉。


先ほどの門よりも、

さらに重い。


「……今度こそ、

本番だな」


ドゥリアが、

小声で言う。


「さっきのは、

前座だったってこと?」


リシアが、

ため息混じりに答える。


「王都らしい挨拶よ」


フィリアは、

中庭を振り返った。


「でも、

悪くなかった」


ネレウスは、

静かに頷く。


「見られる場で、

力を示した」


「無駄ではない」


ライナスは、

軽く肩を回した。


腕に残る痺れは、

まだ消えていない。


だが、

痛みは心地よい。


生きている実感。


「行くぞ」


短く言い、

歩き出す。


副団長とすれ違う瞬間、

視線が交わる。


敵意ではない。


悔しさと、

ほんの少しの敬意。


「次は、

俺が勝つ」


副団長が、

低く呟いた。


ライナスは、

振り向かずに答える。


「その時は、

全力で来い」


それだけで、

十分だった。


―――


石造りの廊下は、

中庭よりも冷たい。


足音が、

規則正しく響く。


左右の壁には、

歴代の王の紋章。


金でも銀でもなく、

深い青。


抑えられた威厳。


やがて、

大きな扉の前に立つ。


装飾は最小限。


だが、

空気が違う。


「ここから先は、

王の間だ」


案内の騎士が告げる。


「武器は携帯のままで構わぬ。

ただし、抜くな」


「抜く気はない」


ライナスは答える。


ドゥリアが、

小さく笑った。


「さっき抜いたけどね」


「必要だった」


「でしょ」


軽い会話。


だが、

緊張は確実に高まっている。


王が、

先に扉へ歩み寄る。


側近が両脇に立ち、

重い扉を押し開く。


光が、

差し込んだ。


高い天井。


一直線に伸びる赤い絨毯。


その先に、

玉座。


王は、

振り返らない。


ゆっくりと、

歩みを進める。


ライナスたちは、

その背を追った。


先ほどの決闘とは、

違う重さ。


ここで交わすのは、

剣ではない。


言葉だ。


玉座の前で、

王が立ち止まる。


振り向く。


「さて」


低い声が、

広間に響く。


「魚人の国の件、

そしてベルクの件」


視線が、

一人ずつを貫く。


「報告は受けている」


「だが、

お前たちの口から聞こう」


中庭の熱は、

すでに消えている。


代わりにあるのは、

冷えた空気と、

王の視線。


ライナスは、

一歩前に出た。


逃げない。


ただ、それだけを胸に。


「話します」


静かな声が、

広間に落ちた。

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